「お嬢様、こちらハーブティーでございます」
椿が淹れたてのハーブティーを温めたカップに注ぎ、目覚めたばかりのお嬢様に差し出します。
それを受け取りお礼を言うお嬢様に椿は胸をうたれました。
些細な事でも感謝を忘れないなんて、お嬢様はなんと優しいお心をお持ちなのだろうか。
椿と桜がお嬢様を信頼する理由の一つがそこにありました。
「お嬢様、御髪を整えさせていただきますね…失礼致します」
断りを入れて、桜がお嬢様の柔らかな長髪に触れます。
サラサラと流れる高品質のクシが髪をとくと…何かが勢いよく上体を起こしました。
寝グセです。
一本の髪が、まるで生きているかのようにピンと背筋を伸ばして存在を主張しているではありませんか。
静電気でもまとっているのでしょうか。
『…なんと…芸術的な』
椿と桜は見とれていました。
か細い毛根から生まれたであろう寝グセは、桜が何度クシを通しても頑固として他の髪の毛と交わろうとしません。
その根性深い一本の寝グセに、椿と桜はお嬢様の高い自立心を見ました。
お嬢様は先を見据えて行動のできるお方です。
使用人である椿と桜に頼らず、自身で予定を把握し、目的を達する。
そのためか、宿題や習い事に遅れた事は一度もございません。
自分でできる事は自分でする。
そこらの甘えた箱入り娘とは話しが違う程に、お嬢様は自立した女性でした。
しかし。
このままではいけません。
どんなに芸術的で自立心があろうと、寝グセは寝グセなのです。
この寝グセをどうにかしなければ、学校に行ったお嬢様がご友人に笑われてしまうやもしれません。
「お嬢様、御髪に乱れが…ミントのオイルミストをかけさせていただきますね」
庭で栽培されているフレッシュなミントが入ったオイルを霧吹きでかけて、寝グセに重さを与えます。
それを丁寧にクシでとかし、ドライヤーで乾かしました。
___ピョンッ…。
しかしながら、寝グセも強固な物で…再び首をもたげました。
ハーブティーを飲むお嬢様の肩越しに、兄妹のアイコンタクトが飛び交います。
(どうしましょう、お兄様…どうしても御髪が乱れてしまいます…このままではお嬢様が…)
(いや、大丈夫だ桜…僕に考えがある)
(お兄様…!その考えとは…!?)
(編みこむんだ…!他の御髪と共に、自立した一本の御髪を編みこむんだ桜…!)
桜の手が丁寧に、そして迅速にお嬢様の髪の毛を編んでいきます。
三つ編みをカチューシャのように編みこみ、美しい髪型のお嬢様が完成しました。



