使用人部屋の清掃を終え、椿と桜が向かったのは親愛するお嬢様の寝室です。
心優しいお嬢様から自由な入室の許可は頂いておりますが、ここは使用人としての規則を守ります。
椿が寝室のドアを3回ノックしました。
返事はありません。
しばし間を置き…もう一度3回ノック。
やはり、お嬢様からの返事はありませんでした。
「お嬢様はまだ夢の中なのだわ、お兄様」
「そうだね桜。しかし目覚めてもらわなければ、困るのはお嬢様だ」
学校に向かう時間は刻一刻と迫っています。
二人は再度ノックをして、返答がない事を確認。
部屋へと足を踏み入れました。
『失礼致しますお嬢さ___』
二人の動きが同時に止まりました。
キングサイズの大きなベッドの上。
眠り姫のごとく眠っているお嬢様は穏やかな笑みを浮かべておりました。
白目をかっぴらいて。
『………』
その様子はホラー映画さながら。
起きていても難しいだろという程に、その目は美しい白目をむいていました。
「失礼致します、お嬢様…お肌に触れさせていただきます」
お嬢様の痴態が不憫だったのでしょうか。
椿が指先で、優しくまぶたを閉じさせました。
その横で桜はモーニングティーの準備をしています。
ハーブティーの爽やかな香りで鼻をくすぐり、お嬢様に目覚めていただこうと思ったのです。
狙い通り、ハーブティーの香りはお嬢様の鼻腔に届きました。
その結果。
___フガッ…。
___グガガガガッ、グガガガガッ…!
なんという事でしょう。
お嬢様のこの世の物とは思えないイビキが聞こえてきたではありませんか。
小鳥のさえずりが聞こえていた部屋の中が一転、工事現場のような騒音が響き渡ります。
迷惑ですね。
しかし、その現状にも椿と桜は慈愛の目をお嬢様に向けます。
「お嬢様は日々の学業で疲れているんだわ…なんてお痛ましいのかしら」
「そうだね、後5分だけでもこのまま夢の中にいていただこう」
椿は手のひらサイズの懐中時計を取り出し、きっちり時間を計り始めました。
口からサビた工具のような音を出すお嬢様は夢の中です。
開拓工事でもしているのでしょうか。
地獄のような5分が終わったのち、二人は無事にお嬢様を起こしました。
再び小鳥がさえずる、平穏な時間を取り戻したのです。



