とある豪邸の使用人部屋にその双子兄妹はおりました。
兄は乱れの一つもない執事服をきっちりとまとい、妹はふんわりとしたシルエットのメイド服をまとっています。
「おはよう、椿お兄様。今日もよく晴れているわ」
「おはよう、桜。今日も良い一日になりそうだね」
使用人専用のリビングで挨拶を交わした二人はもうすぐ17歳。
使用人歴は10年になろうとしていました。
忘れもしない、二人が7歳の頃。
この豪邸の一人娘である“お嬢様”に仕える事になりました。
二人の家は、先祖代々続く使用人の家系だったのです。
兄は執事として。
妹はメイドとして。
最初はぎこちなかった給仕も、今ではお手のものとなりました。
「あらあら二人とも、早いわねぇ」
ガタガタと体を揺らしながらメイド長がやってきました。
御年99歳のタミ子さんです。
足腰の筋肉が少々衰えてきましたが、彼女はまだまだ現役メイドでした。
今日も使用人達のため、モーニングティーを持ってきてくれました。
ワゴンに乗せられたティーポットの中身は荒れた波のように揺れて泡立ち、並べられたカップはとんとん相撲のように小刻みに移動しています。
タミ子さんの体の揺れが、ワゴンを運ぶ手から伝わり振動しているせいでしょうか。
「た、タミ子さん!ワゴンは私が運びますよ!」
「わ、ティーポットの注ぎ口からティーが!ナイアガラの滝のように溢れ出てますタミ子さん!」
二人の慌ただしい声に、タミ子さんは右手を右の耳にあてました。
「…はい?なんて言いましたか…もう一度おっしゃって下さいな」
「そうだった、タミ子さんはお耳が遠かった…」
打ちひしがれる兄…椿の横で、妹の桜が頑張って声を張り上げます。
「ワゴンは!私が!運びます!」
「はいはい…今日のティーはアップルティーですよ」
「ティーの種類は問うておりませんタミ子さん!」
「あぁ、中身が!中身がもう残っていないよ桜!」
止まっている間もタミ子さんの体の振動は止まりません。
そろそろお暇をもらって介護施設に入所すべきではないでしょうか。
遂に耐えきれなくなった土俵際のカップ達。
四方八方からその身を床に投げ出そうとします。
『危ない!!』
すんでの所で、椿と桜が全てのカップを押さえました。
これはナイスです。
ただでさえ忙しい朝に、割れたカップの掃除をせずに済みました。
「あらまあ、元気な事」
二人の活躍を知ってか知らずか、タミ子さんが笑っています。
その横ではティーポットから流れたアップルティーがワゴンを伝い滝のように流れていました。
『………』
さぁ、二人の朝の始まりです。



