彼女になりたいし彼女になってほしい(仮)

「杏菜の彼氏見たい人ー!」
梅雨明け間近の金曜日。
女子更衣室兼ロッカーで笠崎さんの声が響いた。

「杏菜彼氏できたん?」
「杏菜おめでとー!」
「彼氏どんな人〜?」
「写真見せて!」
「その人のSNS見せて!」
「何中?高校は?」

他クラスの1軍もたまたまいる状況で大賑わいの女子更衣室。

ドドドッと心臓が波打つ。

外は大して雨は降っていなくて小雨程度なのに、
雷が落ちたのかと思う程衝撃で、
心臓はもぎ取られるかと思う程痛くて、苦しかった。

ただただ苦しくて、その後受けた授業の記憶は無く、お昼ご飯も晩ごはんも喉を通らなかった。

“杏菜に彼氏”

心にむち打ちだった。
構えていなかったから余計にダメージが大きかった。

杏菜への気持ちの処理で精一杯で、
杏菜を想う事にいっぱいいっぱいで、どこか浮かれていて、
杏菜が誰が好きだとかそんな事まで考えがついてきていなかった。

苦しい…ただただ苦しかった。

我慢していた涙が夜、自室に入った途端溢れて止まらなくなった。

嫌だ…杏菜に彼氏…嫌だ…


友達は彼氏ができたら喜んで、杏菜の幸せを願う存在だろうし、
私は喜ぶ事もできず、友達としても不適合だと思うと絶望感でどうにかなりそうだった。

数時間悲しみのような葛藤のような、感じた事のない気持ちの処理でもがき苦しみ、その間も涙は流れ続け、現実逃避するかのように気が付けば寝ていた。

朝起きた時に身体が重たくて、よく見る漫画での
鉛のように身体が重いって表現がぴったりだと思った。

頭が重くて痛くて動きに全くならなかった。
幸い休日だしこのままでも問題ないと思っていたが

『昨日様子変だった。家に居るなら行ってい?』

何かを察したコチから連絡が来て、私の自宅へと足を運んでくれた。


「なんかあった?随分顔やつれてる。昨日から変では?」

コチの言葉にまた杏菜に彼氏ができた衝撃を思い出して、
涙がポロポロと流れ落ちてくる。

何かを発しようにも苦しくて言葉に詰まる。

見かねたコチが背中を擦ってくれた。
その優しさがとても沁みる。

数分の沈黙の後

「………好きな人に恋人ができた。」
そう伝えるとコチは驚いた顔をした。
でも、問い詰めるわけでもなく慰めるわけでもなく
「それは辛い。」

と一言。
有難かった。