優しさは、俺だけに

帰りの電車の乗り換えで、ふと足が止まった。

「……前川さん」

気付けば、声に出していた。

「禅君」

お互いに立ち止まる。

ほんの数秒なのに、
少しだけ時間が戻ったような感覚になる。

「禅君、少し痩せたんじゃない?」

変わらない口調で、そう聞いてくる。

「そうですか?」

「うん、そんな気がする。
大変なの?」

相変わらず、自然に心配してくる。

――変わらないな。

ふと、前川さんを見る。

髪が少し伸びていて、
前よりも、どこか大人びた雰囲気になっていた。

「前川さんも、髪伸びましたね。
雰囲気、ちょっと変わりました」

そう言うと、少しだけ照れたように笑う。

その表情に、胸が少しだけ揺れた。

「相変わらずですね、
前川さんの優しさは」

少しだけ皮肉を混ぜて、笑いながら言う。

「何それ。ひどい、禅君」

軽く返してくる、その距離感も変わらない。

――これでいい。

そう思って、

「じゃあ」

と、帰ろうとした、その時。

「禅君」

呼び止められて、足が止まる。

振り返ると、
前川さんの表情が、少しだけ真剣になっていた。

「あれからね、
彼と話して、別れたの」

前川さんの言葉に、思わず息が止まる。

「えっ……」

あまりに突然で、うまく言葉が出てこなかった。

少しの沈黙のあと、

「禅君、もう少しだけ時間くれない?」

真っ直ぐにそう言われて、
断る理由なんてなかった。

乗り換え駅前のカフェに向かった。