家に帰り、明日の準備をする。
「ラストは、このYシャツとジャケットにしよう」
そう呟きながら、整える。
明日で、A支店は最後。
引き継ぎも、ほぼ終わっている。
やり残したことは――ないはずだ。
それでも、どこか落ち着かない。
送別会のあと、
前川さんと会う約束をしている。
あの時の言葉の返事を、
聞くことになる。
部屋の静けさが、やけに耳につく。
久しぶりに感じる、この感情。
期待なのか、不安なのか、
自分でもうまく整理がつかない。
ネクタイに手を伸ばして、ふと止まる。
「……しっかりしろ、俺」
小さく言い聞かせるように呟いた。
送別会でみんなに挨拶をして、
A支店での、すべてが終わった。
なんとも言えない気持ちだった。
辞めてやる、なんて思ったこともあった。
でも、
振り返れば、成長させてもらった場所で、
感謝しかない。
花束を抱え、
もう一度、鞄を持ち替え
ドアを開けた。
前川さんが待つ店へ向かった。
選んだのは、小さなカフェ。
どちらに転がってもいいように。
――弱気だな、俺。
心の中で、苦笑する。
ドアを開けると、前川さんがいた。
小さく手を上げて、ほほ笑んでくれる。
「遅れてすみません」
「禅君、引き継ぎお疲れ様だったね」
そう言って、
「よく頑張りました」と頭をなでようとするから、
「やめてくださいよ」
思わず少し強めに返してしまう。
前川さんは、くすっと笑った。
「やっぱり、禅君には、
優しい先輩になっちゃうのかな、私」
その言葉に、少しだけ間を置いてから――
「優しいのは、俺だけにですか?」
自分でも驚くくらい、まっすぐに聞いていた。
「私、優しすぎるのかな」
前川さんが、ぽつりと俺に聞いてきた。
「俺からすると、
そこまでしてあげなくてもいいのに。
って思います」
少し言葉を選びながら続ける。
「相手が男なら...
なおさらそう思うかもしれないです。
いわゆる……ヤキモチですかね」
自分で言って、少しだけ照れくさくなる。
前川さんは、ふっと笑った。
「禅君って、素直だね」
その言葉に、何も返せなかった。
「今の彼にもね、喜んでほしくて、
いろいろ私からしちゃうのかも」
静かな声だった。
「それは、好きだったからじゃないですか」
そう返すと、前川さんは小さく首を傾ける。
「好きだったのかな。憧れだったのかな。
なんか、分かんなくなってきちゃった」
その言葉に、少しだけ胸が締めつけられる。
「だから、
こんな気持ちのままで、
禅君に返事をするのは、失礼だと思ったの」
――それで?
思わず、先を促していた。
「それで、禅君の気持ちには、答えられないって思って」
少しだけ間を置いて、
「それが、私の返事です」
静かに、はっきりと告げられた。
言葉が、すぐには入ってこなかった。
少しの沈黙のあと、顔を上げる。
「……分かりました」
自分でも驚くくらい、落ち着いた声だった。
「ちゃんと考えてくれて、
ありがとうございました」
そう伝えると、
胸の奥がじんわりと熱くなる。
――そんな簡単じゃないよな。
心の中で、静かに言い聞かせた。
「ラストは、このYシャツとジャケットにしよう」
そう呟きながら、整える。
明日で、A支店は最後。
引き継ぎも、ほぼ終わっている。
やり残したことは――ないはずだ。
それでも、どこか落ち着かない。
送別会のあと、
前川さんと会う約束をしている。
あの時の言葉の返事を、
聞くことになる。
部屋の静けさが、やけに耳につく。
久しぶりに感じる、この感情。
期待なのか、不安なのか、
自分でもうまく整理がつかない。
ネクタイに手を伸ばして、ふと止まる。
「……しっかりしろ、俺」
小さく言い聞かせるように呟いた。
送別会でみんなに挨拶をして、
A支店での、すべてが終わった。
なんとも言えない気持ちだった。
辞めてやる、なんて思ったこともあった。
でも、
振り返れば、成長させてもらった場所で、
感謝しかない。
花束を抱え、
もう一度、鞄を持ち替え
ドアを開けた。
前川さんが待つ店へ向かった。
選んだのは、小さなカフェ。
どちらに転がってもいいように。
――弱気だな、俺。
心の中で、苦笑する。
ドアを開けると、前川さんがいた。
小さく手を上げて、ほほ笑んでくれる。
「遅れてすみません」
「禅君、引き継ぎお疲れ様だったね」
そう言って、
「よく頑張りました」と頭をなでようとするから、
「やめてくださいよ」
思わず少し強めに返してしまう。
前川さんは、くすっと笑った。
「やっぱり、禅君には、
優しい先輩になっちゃうのかな、私」
その言葉に、少しだけ間を置いてから――
「優しいのは、俺だけにですか?」
自分でも驚くくらい、まっすぐに聞いていた。
「私、優しすぎるのかな」
前川さんが、ぽつりと俺に聞いてきた。
「俺からすると、
そこまでしてあげなくてもいいのに。
って思います」
少し言葉を選びながら続ける。
「相手が男なら...
なおさらそう思うかもしれないです。
いわゆる……ヤキモチですかね」
自分で言って、少しだけ照れくさくなる。
前川さんは、ふっと笑った。
「禅君って、素直だね」
その言葉に、何も返せなかった。
「今の彼にもね、喜んでほしくて、
いろいろ私からしちゃうのかも」
静かな声だった。
「それは、好きだったからじゃないですか」
そう返すと、前川さんは小さく首を傾ける。
「好きだったのかな。憧れだったのかな。
なんか、分かんなくなってきちゃった」
その言葉に、少しだけ胸が締めつけられる。
「だから、
こんな気持ちのままで、
禅君に返事をするのは、失礼だと思ったの」
――それで?
思わず、先を促していた。
「それで、禅君の気持ちには、答えられないって思って」
少しだけ間を置いて、
「それが、私の返事です」
静かに、はっきりと告げられた。
言葉が、すぐには入ってこなかった。
少しの沈黙のあと、顔を上げる。
「……分かりました」
自分でも驚くくらい、落ち着いた声だった。
「ちゃんと考えてくれて、
ありがとうございました」
そう伝えると、
胸の奥がじんわりと熱くなる。
――そんな簡単じゃないよな。
心の中で、静かに言い聞かせた。
