乙女ゲームの親友ポジに転生した天才チート系令嬢、ストーリーのそのあとの方が大変だった件


 約一週間、時折荷馬車の中で野宿をし、時折襲ってくる魔物を返り討ちにしてお肉にしながら国境の町ディニーラに到着した。
 こここそ、『聖者の紋章』を持つ双子が生まれた町。
 大きな風車がいくつも見える、谷の近くにある町だ。
 まるで風と谷のアニメ映画を彷彿とさせる景色。
 風と風車がギシギシと重く回る音と人の笑い声が響く、とてものどかな町。
 目を輝かせるアルカとルナーシャ。
 二人の実家は、少し丘になっている一軒家だという。
 ルナーシャ・ピュアジーとアルカ・ピュアジーは『覇者の集い』の主人公。
 二人は生まれつき左手に『聖者の紋章』を持って生まれた。
 しかし、二人の両親はその祝福された紋章の出自とはかけ離れた関係だったという。
 なぜなら、父親がわからない。
 母親は二人を『産みたくない』と叫びながら、産んだ直後に出血多量で亡くなったそうだ。
 結局、二人は母方の祖父母によって育てられた。
 左手の『聖者の紋章』は最初、複雑な形のアザだとしか認識されず、十四歳の時に巡礼に来た王都の神官によって発見されるまで放置されたのだという。
 つまり、二人の父親はまだ不明。
 ゲーム内でもなにも語られていない。
 ただ、状況的には――暴行を受けて妊娠してしまったのかな、と言われている。
 二人もそう思っているから父親のことは『多分嫌い』らしい。
 たとえ会ったとしても絶対に感謝しないと言っていた。
 許せない、と。
 母親に『産みたくない』と望まれず生まれてきた二人にとって、魔王を討伐して世界を救ったことでやっと生まれてきたことを『許された』気持ちなのだそうだ。
 それまでの十数年間、ずっと『生まれてきたことを許されない』と感じて生きてきたのだとしたら、そんなに苦しい主人公って――って。

「あそこ! あそこがわたしたちの家!」
「あ、こら! ルナーシャ!」

 アルカが叫ぶ。
 ハッとして荷台の後ろを見ると、ルナーシャが荷台から飛び降りて家に向かって走り出す。
 なにがやばいって、いくら坂道だからって馬の歩より速く駆け上がり、自宅に向かうルナーシャのその速度、脚力。
 さすが魔王と戦った脚力と言うべきか。
 肩を落とすアルカに「アルカも行ってもいいのよ」と言うと顔を赤くして「いやいや」と言われた。
 気にしなくていいのに。

「おばーーーちゃーーーーーーん!」
「ルナーシャ!?」

 家に近づくとルナーシャの叫びとはためく洗濯物。
 その合間から老婆に飛びつくルナーシャが見えた。
 あれ、大丈夫?
 ルナーシャに飛びつかれてあのおばあさんは倒れるんじゃ……と思ったらしっかりと抱き留めて踏ん張った。
 つ、強い……!

「ルナーシャ! おかえり! じーさーん! ルナーシャが帰ってきたぞーい!」
「なーーーにーーー!? ルナーシャー! おかえりー!」

 家の裏から駆けつけてきたご老人。
 その頃にはようやく馬車が家の庭に入る。
 ルナーシャに抱きつくおじいさん。
 なんならそのままルナーシャを抱えてぐるぐると回転し始める。
 いくら小柄とはいえ十八歳の女の子を、幼女のように軽々しく持ち上げて回転するなんて……。

「アルカとルナーシャのお祖父様、なんというか、とてもお元気ね」
「あ、ああ……」

 アルカの目が遠い。
 二人の祖父母というから、この世界にしてはかなりのご高齢。
 前世の日本ならともかく、この世界ならとっくに老衰で亡くなっていても不思議ではない年齢のはず。
 めちゃくちゃ元気だなぁ。

「そうだ! 手紙でも言ってたけど紹介したい人がいるの! レイスー!」
「はいはい」

 荷馬車を庭の空いた場所に置かせてもらい、下りる。
 ルナーシャとアルカの両親替わりのご祖父母。
 お二人に頭を下げて自己紹介をする。

「初めまして、レイス・トゥワイエットと申します」
「おお! アンタがルナーシャとアルカの命の恩人か!」
「え? いえ……」

 命の恩人!? なにそれ!?
 もしかしてルナーシャを庇って髪を切った時の話をしている?
 確かに令嬢として髪が肩より短くなってしまったのは、かなり異例というか……。
 でも、それを言ったらルナーシャだって肩より短いじゃないの。
 肩につかないほど短いツインテールは、本人曰く「だって邪魔なんだもん」らしいけれど。

「なにか大袈裟に伝わっていない?」
「そんなことないよー! レイスはいつもわたしたちを助けてくれるじゃない!」
「そうだよ。貴族学園に強制入学させられた時から、何度助けられたことか」
「大袈裟じゃない」
「「大袈裟じゃない」」

 なんのことかと思えば、親に命じられて貴族学園で面倒を見ていたことか。
 だが双子にとってあれは大袈裟なことではないらしい。
 ゲームの中でもレイスは最初、親に命じられて主人公によく話しかける。
 主人公の選択肢によってそこで“敵”か“味方”になるのだ。
 と言っても、主人公の選択肢は基本的に“平民目線”故のものが多く、それに対して“貴族目線”のレイス・トゥワイエットの受け取り方が悪かった場合、好感度が下がって“悪役令嬢”になるのだ。
 ゲームの中のレイス・トゥワイエットは親に道具としてしか見られず、愛に飢えた少女。
 婚約者のケビンも最初から主人公ルナーシャに夢中になる。
 攻略を進めていなくても、それなりに好感度が高いのがケビン・アーレシュアという攻略対象だ。
 それでも先日の、私に婚約破棄を言い放ったケビンは気持ちが悪かったけれど。
 まさかそれがヤツの性癖(ロリコン)故だとは思わなかった。
 ただまあ、納得もしたけどね。
 私――いや、ゲームの中のレイス・トゥワイエットはそうして孤独だった。
 私は前世の記憶があったから、親に愛されなくても元から他人だったしケビンはヒロインが好きなものという認識があったからそもそも婚約者であっても興味がなかったけれど……。