貴族として生きてきた二人は顔を見合わせて嫌そうな顔をする。
まあまあ、頑張って慣れてくれたまえ。
「やめるなら今だけれど」
「急でしたが、レイス嬢に指名されたとなれば誉ですよ。もちろん同行します」
「俺も! 騎士見習いだが、向こうで功績を上げればすぐに騎士になれるだろう? やってやるぜ!」
うひひ、と笑うアーカーと、にしにし笑うエルワーズ。
やはり『覇者の集い』の攻略対象、貴族としてはあまりにも様子がおかしい。
まあ、助かるけれどね。
「それで、ルナーシャとアルカとはどこで合流するんだ?」
「王都を出る正門よ。そこで大きな荷馬車に乗り換えて、一週間ほどかけて国境の町ディニーラに向かうわ」
「ディニーラか。辺境に行ったら辺境伯にお目通り願うのか? それなら――」
「いいえ。そのまま魔族国に向かうつもり。目的地は魔族国中心の町、アガレスよ。まずは魔族を束ねる族王に会おうと思っているの」
「「族王?」」
聞き返されて一瞬「え?」と聞き返しそうになったが、この二人は攻略対象ではあるがルナーシャとアルカにパーティーメンバーとして選出されなかった。
だから魔族国について、私よりも知らないのか。
仕方ないので移動中に最低限のことを教えておこう。
「魔族国は魔族が住む小国なのは知っているよね」
「はい」
「おう」
「魔族も元々は私たちと同じ人間なのよ。土地に渦巻く膨大な魔力に適応して、人と魔物の特徴を併せ持つように進化した部族なの。だから元々は”族長”と呼ばれるのだけれど、一つの国として名乗りを上げた時に他国へ示しがつくよう”族王”と名乗ることにしたのだそう。中心にある真智アガレスは、最初に族王を名乗った族長の名前。現在はその親類に当たるディブレ・グロイズ様が族王を務めているわ」
ちなみにディブレ・グロイズは『覇者の集い』にも登場する。
立ち絵があるが、疲れた顔の薄幸そうなやせ細った老人。
『覇者の集い』なら攻略対象にしそうな立場の人物だが、スマホゲーム時代から『逆張りで攻略対象にはしない』と明言されている。
なんやねん、逆張りで攻略対象にしないって。
そういうとこ頭おかしいんだよなぁ、あの運営。
しかし、今回魔王討伐の旅で会った時はそこそこ若いお兄さんだったな。
褐色の肌とグレーの髪、ほっそりとした高身長。
体からは信じられないほどの魔力を感じられた。
魔族は基本的に人類の中でもっとも魔力を持っている。
しかし、ディブレ族王の魔力はずば抜けていたのだ。
そしてその魔力は、汚染魔物から中心の町アガレスを守るために結界を張ることに注がれていた。
あんな魔力量と容姿、攻略対象でもおかしくない。
もしかして私が死んだあと、ソフト版の『覇者の集い』で攻略対象になったのかな?
DLCの攻略対象、とか?
ありえるー。
「では、まずはディブレ様にお会いして活動を認めてもらうのか」
「魔族って僕、会ったことがないのだけれど……怖い人とかいない?」
「怖くはないわ。魔族は魔物には強いけれど汚染魔物にはとても弱い。だから『聖者の紋章』を持つ者を信仰対象にしているくりいなの」
「どういうことだ?」
御者を務めるアーカーが振り返る。
運転するなら前を向いていてほしい。危ない。
「魔族は簡単にいうと魔法師の強化版。一般人でも自在に魔力を操り魔法を使えるの。貴族しか魔力を持たないアーレシュア王国とは違ってね、平民も魔力を持っているのよ」
「なんだって!? なんだってとんでもねぇじゃねーか!」
「だから魔物には強いの。なんならあの国は、魔物だって肉として狩って食べるくらい」
「魔物を食べる!? 魔力が満ちていて、とても食べれないですよ!? 食べたら魔力過多になって下手したら死にます!」
「魔族は大丈夫なんですって」
だから魔族は魔物を食べることができる。
アーレシュア王国の人間なら、魔力過多の肉はよほど魔力の高い貴族であっても食べられない。
魔力過多は毒と同じだから。
でも一応、魔力を使い果たした状態なら食べられる。
汚染魔物との戦闘で魔法を使いすぎ、魔力が減った状態だったからと魔物を狩って食べたら普通に美味しくいただけただけでなく、魔力も補充できた。
その話をしたら「な、なんて過酷な旅……」とドン引きされる。
攻略対象でもあの旅をしていないとそんな反応なのね。
「ちなみに結構美味しかったわよ」
「「うわあ……」」
「そのドン引きやめてよ」
魔物の肉については魔族国への楽しみの一つなのにっ。
きっとたくさん魔法を使うことになるから、魔物肉をたくさん食べられる、って!
「こほん! まあ、だから逆に汚染魔物は魔族にとって天敵なの。汚染魔物は魔力をほぼ無効化するからね」
「伝承通り、汚染魔物は“魔力を汚染する”のか」
「そう」
汚染魔物がなぜ汚染魔物と呼ばれているのか。
それは魔力を汚染する生物だから。
魔族国は魔力に満ちた国。
魔族が魔族と呼ばれるのも、魔力を多く持ち、魔物のような身体の特徴を持つほどだから。
汚染魔物は魔力を汚染して吸収する。
獲物に毒を注ぎ込み、とろとろに溶かして食べる蜘蛛や蛇のように。
魔族にとって汚染魔物は天敵――そういう意味だ。
しかも汚染魔物の最大の特徴はそっちではなく、食った生き物の特性を吸収して自分のものにするところ。
酷い殺し方をされただけでなく、培ったものまで奪われる。



