乙女ゲームの親友ポジに転生した天才チート系令嬢、ストーリーのそのあとの方が大変だった件


 それは確かにそうだけれど。
 なんて余計なことを、と不機嫌な顔をしている――と、思う。
 愛想と同じように不機嫌な顔も無表情にかき消されるから、アルカたちには伝わっていないかもしれないが。
 でも、ルカーシュがそんなことを考えていたなんて。
 四歳児が気にすることではないのだけれど。

「アーレシュア王国以外の人間の国にも薬を届けられたら、っていう話?」
「ええ、そうよ。でも色々難しいの。それに、今の段階でもアーレシュア王国以外に卸せるほどの数が確保できていない状況でしょう? だから――」
「魔石を使えないかな?」

 ナシュの言葉に顔を上げる。
 ああ、そうか。その手があった!

「魔石? 魔道具にするってこと?」
「うん。確か、レイスお姉ちゃんが考えついたんだよね? 魔石作る機械。それがあれば魔族国から一方通行の転送装置が作れない?」
「作れるかも……しれない。やってみるわ……! ありがとう、ナシュ!」
「「え」」

 善は急げ!
 お茶を一気飲みして、自宅に戻る。
 書斎に入って設計図を描き出し、素材を集めて小さな円で囲った魔道具を作ってみた。
 魔力さえ通せば誰でも使える魔法陣と違い、より精密な命令を書き込める魔道具なら、悪用できない。はず!

「おかあさま……?」
「あ。どうかしたの? ルカーシュ」
「すごく早くかえってきて、おへやにとじこもっていたから……。おゆうはんのじかんだよ……?」
「え? もうそんな時間?」

 時計を見ると、本当にそんな時間だった。
 すでに一階の食堂には食事が準備されている、と言うので肩を回してから扉から顔を覗かせているルカーシュのところへ向かう。

「呼びにきてくれてありがとう」
「なにをつくっていたの?」
「こちらからお薬を送れる魔道具よ。ルカーシュが気にしていたと聞いたから、作ってみたの」
「え! 作れたの!?」

 作れたわよ、と言うとルカーシュは目を輝かせる。
 きっとずっと気にしていたのだろう。
 優しい子。
 きっとアルカに似たのね。
 食堂に下りるとアルカがすでに食卓に座っていた。
 そして不安気に「大丈夫?」と聞いてくる。
 これは私の魔道具の具合を聞いているのではなく、魔道具作りを中断させて大丈夫、というご機嫌伺いだ。

「大丈夫よ。完成したところだから」
「ええ!? 本当に作れたの!?」
「なんか作れたわよ」
「て、天才……? ルカーシュも鍵の魔道具を作ったんだよね?」
「へ?」

 驚いて手を繋いでいた娘を見下ろすと、ドヤ顔で南京錠を取り出す。
 これ、魔石が組み込んである。
 こんな小さな南京錠の中に魔石を組み込んだ魔道具を作り出したということ!?
 そんなことできるの!?

「えへへ。おかあさまのしょさいの本でべんきょーしたの」
「だからって作れる!?」
「まだ効果の方は試していないけれど、魔石の大きさを変えて鍵と錠前のセットの魔道具を作るなんて相当な技術だよね」

 相当なんてものじゃない。
 私だって魔道具に関してはまだ素人。
 アーレシュア王国にも一部の高位貴族しか魔道具を持っていない。
 魔族国だってよそよりは多いが魔石自体、魔物から出るのがレアだから一家に一つ二つ。
 人工魔石が作れるようになったのもここ数年以内であり、魔道具の開発はまだ私の趣味の範囲内。
 それなのに、教えてもいないのに魔道具を……作った!?

「魔道具作り、楽しいんだって」
「そ、そうなの?」
「うん! すごく楽しい! おかあさま、ルカーシュ、おおきくなったらまどーぐつくるひとになりたい」

 アルカと顔を見合わせる。
 でも、まあ、私から見てもこの子は天才。

「紋章がなくても、天才っているんだね。レイスに似たんだろうな」

 そうか?
 私はアルカに似ていると思っていたのだけれど……。
 まあ、どっちにしてもルカーシュはこの世界の未来に大きな変革をもたらす人物になりそう。

「私に似ているかどうかはわからないけれど……ルカーシュはすごい技術者として名を残しそうね」
「そうだね!」

 ルカーシュ。
 私の可愛い娘。
 子どもを産んで、こうして育てていると本当に前世の両親も今世の両親もどっか欠落しているとしか思えない。
 こんなに可愛い我が子を、どうして育てようと思わなかったのだろうか。
 私は楽しくて仕方ない。
 欠落していると思っていたけれど、今ならはっきりわかる。
 おかしかったのは、前世と今世の両親。
 だって私はこんなにも、彼女の未来が楽しみで仕方ないのだもの。