乙女ゲームの親友ポジに転生した天才チート系令嬢、ストーリーのそのあとの方が大変だった件


 ――ああ、今日から新しいDLCが遊べる。
 そう思いながら、よろよろとベッドから上半身を起こす。
 ひどい咳が出て、一度出ると止まらない。
 バイトに行けなくなって、お金がなくて病院に行けなくなり、自分でも市販の風邪薬では治らなくなっていると自覚はあった。
 スマホや電気もいつの間にか止まったし、そのうち水も止まるだろう。
 行政に支援を求めた結果、両親が存命だからと生活保護は受けられなかった。
 両親に連絡もしてくれたが、外面のいい両親は『すぐに迎えに行きます』という言葉だけ告げてあとは無視。
 咳が出る。
 咳のしすぎで喉が焼けるように痛み、血が手のひらにつく。
 孤独死するんかな。
 するんだろうな。
 
「片づけよう」
 
 ゴミ袋にとにかく家の中のものを詰める。
 詰めて、詰めて、詰めて、備えた。
 いつ死んでもいい。
 一人で死ぬ。
 ああ、なんて無意味で無価値な人生だったのだろう。
 いっそ、こんなに苦しいのなら自分で幕引きしてしまおうか。
 その方がいい。
 どうせ助からない。
 それなら――でも、そうだ……DLC。
 無料DLCだけ、やってから死のう。
『覇者の集い』。
 私の人生でたった一つ、人と繋がりを作ってくれたゲーム。
 ゲーム端末を起動して、ダウンロードを開始する。
 これだけ遊んだら終わりにしよう。
 そう思っていたら、電池が切れた。
 充電しようにも電気は止まっている。
 
「………………」
 
 惨めだなぁ。
 ゲーム端末をケースに入れて、部屋を出る。
 人の迷惑にならない場所で、できるだけ楽に。
 心残りにはなったが、たくさん楽しませてもらえたから。
 ありがとう、『覇者の集い』。
 私もあのゲームのキャラクターたちのように強かったらなぁ。
 
 
 
 そんな寂しい記憶で途切れる。
 おそらくあのあと死んだのだろう。
 鏡の前にいるのは青い髪と目の美少女。
 見覚えがある。
 レイス・トゥワイエット。
『覇者の集い』のライバル令嬢兼、親友ポジのキャラ。
 私、レイスに転生した?
 
「転生ってマジにあるんだ。ほげぇ」
 
 それからレイス・トゥワイエットの人生が始まった。
 楽に生きるためにこの世界のことをとにかく勉強する。
 だって前世とはまるで違うんだもん。
 特に地位。
 貴族は勉強して、令嬢として嫁ぎ先で子を産むのが役割。
 義務であり、それ以外を求められないぐらい。
 だから教養を身につける、容姿を整えるのは妻になるための前提条件。
 だが、ゲーム通りケビンの婚約者に抜擢された。
 
「初めまして、僕はケビン・アーレシュア」
「レイス・トゥワイエットです。よろしくお願いします」
 
 いつかルナーシャと結ばれるかもしれない攻略対象。
 ちなみに、この時初めて『覇者の集い』のキャラに出会ったので顔には出なかったがテンション爆上がりだった。
 それ以降も、特に学園に入学してからは攻略対象がたくさんいてテンション上がったよね。
 そして――まさかの双子入学。
 ええ、マジか。
 アルカがいる世界線マジか。
 それはそれでテンションが上がった。
 ただ、ルナーシャとアルカが置かれた環境は最悪。
 貴族たちは平民のルナーシャとアルカをずいぶんわかりやすく差別する。
 ゲームの中ではモブだったはずの生徒たち。
 今は明確な敵意を持って、双子に接している。
 そんなことある?
 予想外すぎてドン引き。
 しかも、学園で試験がある度順位が発表されるようになってから、ケビンの様子も少しずつゲームとは乖離し始めた。
 様子がおかしい乙女ゲームだから、あまり気にしていなかったけれど。
 さすがにルナーシャが毎日執拗に男子生徒からセクハラをされているのを見たら、口を出さずにいられなかった。
 仕方ない。
 魔王討伐の旅なんて命懸けのこと、命が一つしかないんだからやりたくねー、とか思っていたけれど……同じ女としてアレは放置ができそうにない。
 なにしろ公爵令嬢ってやつは、弱い女性の味方をするものだ。
 そのあたりはこの世界に生まれてレイスとして育ったから身についた“常識”。
 シンプルに同じ女として見ていられなかったのもあるし、大好きな『覇者の集い』の主人公たちがつらい思いをしているのを見て見ぬふりをしていられなかったってのもある。
 だから声をかけた。
 やっぱり主人公たちは、私の中で特別だったのかもしれない。
 
 それから本当に魔王が生まれ、王命でルナーシャとアルカは魔族国に派遣されることになった。
 学園で親友ポジに落ち着いてしまったので、当然ルナーシャとアルカに『もし許されるならレイスに一緒に来てほしい』と控えめに頼まれる。
 まあ、アーレシュア王国の貴族として一緒に行くのは合理的だと思った。
 私がいれば宿に泊まるお金の心配はしなくていいし、二人が苦手な貴族や国同士のやり取りの窓口になれる。
 一応、これでも前世は社会人経験があった。
 貴族令嬢としての教養もあるしね。
 二人だけならきっと不愉快になるような相手の態度も、私相手ならそう出せるものでもないもの。
 だから私は結構、二人を甘やかしてしまったんだと思う。
 でも仕方ない。
 だって二人は『覇者の集い』の主人公なんだもの。