乙女ゲームの親友ポジに転生した天才チート系令嬢、ストーリーのそのあとの方が大変だった件


 先程まで王子妃を目指してケビンをちやほやとしてきた令嬢たちが、急にじとりと睨みつけてきている。
 非常に冷たい空気。
 ピリッと、肌を指すようなピリつきまである。
 あからさまに責められる眼差しを一身に受けて、ケビンがたじたじとなり、後退りを始めた。
 味方はいない。
 でも、仕方ない。
 先にこの場で喧嘩を売ってきたのはケビンだし、自分が蒔いた種。
 全部自業自得。

「また、この……また、余計なことを……!」

 ぎりり、と唇を噛み拳を握るケビン。
 そして怒りも最高潮、と言わんばかりに私の方を指さしてきた。

「いつもいつもいつもいつも! 女なら! 私の婚約者なら! 私の後ろで控えていればいいものを! いつもいつもいつも!」

 せっかく整えたであろう髪をぐしゃぐしゃに乱し、地団駄を踏む。
 本当に、まるで子ども。
 マイキーやナシュよりも精神が幼児。
 あまりの光景に令嬢たちもドン引き。
 王子妃の立場はほしいが、この男が夫だと思うと将来ゾッとする。
 私は別にこの男のこういうところが嫌だからと婚約破棄したわけではないけれど……というか、向こうが勝手に嫌がって、ルナーシャと結婚したくて婚約破棄になったわけだけれど。
 まあ、でもそれにしたってひどいな。
『覇者の集い』の様子のおかしな攻略対象は見慣れたはずだが、ケビンはこんなタイプの様子のおかしさではなかったもの。

「お前はいつもそうだ! 勉強も所作も褒められるのはお前ばかり! 成績もしれっと私よりも上位に居座り、ルナーシャに認められ、懐かれる! 私がほしいものを全部奪って、愛想笑いのひとつもしない! 私の努力を踏み躙って涼しい顔をする! 本当に嫌味たらしい、最低な女だ! お前のような女がなぜ成功する!? 父や母から信頼わわされる!? お前を次期女王にと推す声が途絶えない!? 私はお前が大嫌いなんだ!」

 目を見開いてしまった。
 ケビンのずっと抱えていた感情。
 ああ、確かに。
 私は幼少期から、この世界が『覇者の集い』の世界だと気づいてストーリーから離れる努力をしていた。
 そのために、勉強も所作も、覚えられるものはなんでも覚えた。
 だって生き延びるには必要なことだったもの。
 主人公たちと関わらなければ、平穏に過ごせると思っていたけれど……そんなこと全然なかった。
 私は『公爵令嬢、レイス・トゥワイエット』として必要な知識、技術、所作、人脈諸々を集めただけにすぎない。
 ケビンもそうすればよかったのよ。
 ゲームの中のケビンはそうしていた。
 婚約者のレイスと競い合って――あ。

「お前のせいで!」

 違う。違った。
 私が一方的に、自分のペースでゲームの中のレイス・トゥワイエットを手に入れてしまった。
 競い合っていた記憶がない。
 ゲーム内のケビンとレイスはお互いを高め合う好敵手のような関係値であり、ケビンとルナーシャが結ばれるためには、レイスに婚約を破棄してもらい友人関係に戻ってもらう必要があった。
 だが、ゲーム内のレイスはケビンに一切の未練などない。
 幼馴染だからこそ、男女関係という感じではなかった。
 好敵手のような友人であり、ともに国を盛り立てる同志だと思っていた。
 私は、ケビンの成長を置き去りにしてしまったんだ。
 じゃあケビンが歪んだのは――ゲームの中とまったく違うケビンになったのは……私のせいってことじゃない!?

「だったら彼女に――レイスに相応しい男になる努力をすればよかった話じゃないですか。どうしてそうしなかったんですか?」

 ゲームのシナリオをそこで崩していた?
 そんなふうに、柄にもなく落ち込んでいた時に凛とした声が響く。
 顔を挙げると、隣にアルカがいた。
 真っ直ぐにケビンを見据えて、真顔で問う。

「ケビン殿下は次期国王なのでしょう? レイスは次期王子妃として、恥ずかしくないようとても努力したと言っていました。王子妃にならなくても国民が困らないように、貴族として働けるように。もしなにかがあった時に一人で生きていけるように、できることを増やす、とも。誰よりも努力をしていました。僕はそんなレイスを心から尊敬しています。彼女のように努力する人間になりたいと思いました。そして、殿下がレイスに婚約破棄をしたのを見た時、レイスが殿下と結婚しないのなら、僕がレイスに相応しい男になろうと」

 お、おおぉい!?
 なにを言い出してるんだー!
 ここには陛下も王妃様もいるんだぞぉ!?

「は、はあ!? アルカ・ピュアジー……まさか、お前その女に懸想してきるのか……!? そんな無愛想な、女の価値もない女を!?」
「……本当にお可哀想な人ですね」
「は?」

 私が放ったものよりもずっと低音の「は?」が出た。
 アルカを見ると、本当に、心底ケビンを憐れむ眼差し。

「まったくです。これほど情に厚い女性もなかなかにおりません。真面目で慈悲深く、他国の他民族のためにも奔走する、優秀な女性を愛想がないという理由だけでそこまでこき下ろすとは」
「ディブレ様……!」

 は!? ちょっ……ディブレまで参戦してきた!?

「次期国王であるケビン様がそこまでおっしゃるのでしたら、引き続きレイス様には我が国でご活躍を願いたい。アーレシュアの王よ。よろしいですかな?」
「それは、もちろんだ。レイス嬢自身が望んでいる。レイス嬢、バカな息子が本当に失礼なことを言った。許してほしいとは言わぬ。許されるようなことではないからな」