乙女ゲームの親友ポジに転生した天才チート系令嬢、ストーリーのそのあとの方が大変だった件


「レイス、お前も来たのか。何度来ようと私の心は貴様には戻らんぞ」
「は?」

 なにを言うとる?
 誰のなにが誰に戻らんと?
 あまりにも素っ頓狂な声で聞き返してしまった。
 いや、だって。
 この男の、この山脈の如く高いプライドとモテ自認は、いったいどこをどうしたらそうなる……?
 ゲームの中ではもっとほのぼの系の優しい王子様だったはずなんだが。
『覇者の集い』の攻略対象らしく、様子はおかしかったけれど。
 どちらかというと天然系の、アルカみたいな。

「残念だが私の心はもうルナーシャのものだ。お前はお呼びではない。とっとと帰れ」
「なにを言っているのかさっぱりわかりませんが、わたくしは本日魔族国族王、ディブレ様と陛下の話し合いにご案内をするために来ておりますの。ケビン殿下が『ルナーシャを王都に戻さなければ、支援を打ち切る』などという手紙を送ってこなければ、陛下に直談判しに来ることもなかったのですがね」
「ぐぎっ!?」
「支援を打ち切る……? なんの話だ? レイス嬢」

 まずい! みたいな反応だが、先に喧嘩を売ってきたのはケビンの方。
 というよりも、自分で蒔いた種でしょうが。
 ケビンが私に送ってきた手紙をそのまま陛下の方に持って行き、読ませる。
 王妃様もじとりとケビンを睨み、陛下は手紙に目を通すと深く溜息を吐く。
 そして、わざわざ立ち上がってディブレの前まで来ると、軽く頭を下げた。
 驚く一同。
 ケビンや、貴族の女性たちにとって魔族国は少数民族であり小国。
 そんな国族王相手に陛下が軽くとはいえ頭を下げるとは思っていなかったのだろう。

「アーレシュア国王として謝罪をします、魔族国の族王よ。愚かなる息子が本当に失礼なことを。これは倅の独断です。なんとお詫び申し上げればよいのか」
「では、支援の打ち切りはないのですか?」
「もちろんです。我が国としても貴国とはよりよい関係を築いていきたいと考えております。わざわざご足労をいただいたばかりか、魔王との戦いで心労も多かったことでしょうに……このような不安まで抱かせ、大変申し訳ない。どうか支援に関して、我が国でできることはなんでもさせていただきたい」
「感謝いたします。アーレシュア国王」

 お互いにぺこり、と軽い会釈をしながら、握手を交わす。
 ケビンの苦虫を噛み潰したような表情をよそに、急遽開催された両国の長同士の邂逅は、上手くいったようだ。
 本当は、ケビンの婚約者候補が集められたお茶会などではなく、人目につかない応接間で行われるはずの会話。
 陛下も息子のバカな行いを、こんな人目につく場所で知ることもなかった。
 隠蔽しようと思えばできたこと。
 自分から晒しにかかったのだから、ちゃんと怒られろ、ケビン。

「ディブレ様、せっかくですから、魔族国で開発された例の薬を――」
「ここでよいのか?」
「はい」
「薬?」
「こちらですわ」

 私の[空間倉庫]から斑点熱の特効薬を取り出して陛下の前へと置く。
 ディブレが不思議そうな陛下に向かって「我が国で採取できるジュエバリーという薬草から作られた、新薬です」と説明する。

「ジュエバリー。聞いたことのない薬草だな」
「魔族国の土でしか生育ができない薬草のようですわ。[鑑定]した結果、解熱と傷痕を消す効果を持つようです。魔族国では解熱は煮込んだ汁を飲み、傷痕に押し当てて使うそうです。わたくしの方で乾燥させ、煎じて濾したものに魔力を含ませる薬草、ボブ・エリーを配合して濾した結果、我が国で毎年流行する『斑点熱』の特効薬が完成いたしました」
「なんだと!?」
「それは本当なの!?」

 陛下と王妃様が声を上げる。
 ケビンの婚約者候補の令嬢たちと、その親の夫人たちも目の色を変えた。
 容姿を気にする貴族の女性たちにとって、罹れば斑点が残る斑点熱は絶対に罹りたくない病。
 その特効薬と聞けば、いくら出しても、喉から手が出るほどほしいだろう。

「試薬はまだですが[鑑定]では斑点熱の特効薬として十分な効果を持つと考えられております。城の鑑定士にも[鑑定]させてくださいませ」
「なんと……それが本当ならば、急ぎ量産してもらいたいのだが」
「そうおっしゃってくださると思い、わたくしがディブレ様より再建を任されている土地では薬草畑を増やすように魔族の方々に依頼をしております。幸いジュエバリーという薬草は一ヶ月ほどで成長し、葉は収穫後も一ヶ月は繰り返して採集できるとのことですので、ある程度の薬の数は生産可能でしょう。しかし、さすがに雨季までとなりますと、アーレシュア国王全体に行き渡る数は難しいかと」

 暗に『貴族の分はなんとかなりそうだけど、平民は難しいよ』と告げる。
 陛下は神妙な面持ちになり、王妃様も席から立ち上がった。

「わたくしたちの分は、いただけそうなのかしら?」
「陛下がケビン殿下の『支援打ち切り』ひついて撤回してくださいましたから、魔族国としても安心して量産に着手できるかと。しかし、今回の訪問はディブレ様が陛下に直接支援打ち切りの撤回を求め、その見返りとして特効薬を、というお話でしたので……遅れは出るかと存じます。そこはお許しいただきたいですわ」

 王妃様が強くケビンを睨みつける。
 これは『オメーの息子が余計なことさえ言わなきゃ、もっと早く量産体制に入れたんだけどなぁ』と言う嫌味である。