乙女ゲームの親友ポジに転生した天才チート系令嬢、ストーリーのそのあとの方が大変だった件


 しかし、今回の横槍の件は一応ディブレに相談しなければならない。
 魔族国が巻き込まれているからだ。
 アガレスに[転移陣]から飛び、面会を求めると思いの外あっさり応接室に通された。
 そこには書類仕事を持ち込んでいるディブレ。
 私が来ると立ち上がって「座ってくれ」と対面のソファーをさしてきた。
 だからぁ、王様が立ち上がって出迎えるのは……いや、まあ、いいわ。

「突然の来訪と面会要請にお応えいただき、ありがとうございます。実は本国よりアホな文書が届きまして」
「ア、アホな文書……?」

 ええ、と溜息混じりにエルワーズが持ってきた『魔族国への支援打ち切り、それを解除してほしければ聖女ルナーシャを王都に連れて来い』文書をディブレに見せる。
 目が点になって、半笑いのまま文書を読み進めていて様子がおかしくて笑う。
 まあね。
『覇者の集い』の攻略対象たちは基本的にどこかしらの様子がおかしいのが売りの一つではあったけどね。
 ケビンの場合の様子のおかしさがヤンデレストーカーなのは……これは……運営にクレーム言ってもる湯されるのでは? って感じ。
 この世界に運営があればの話だけれど。
 いや、この場合の運営は陛下と王妃様か?
 ね……このヤンデレストーリー感を携えたまま恋愛イベント発生したら失笑の挙句冷笑不可避でしょ。
 お前なに言ってんの、なにかっこつけてんの、って。

「え……ええと……私の方で読む限り、魔族国への支援が打ち切られる、ということでしょうか?」
「まあ、ええ。その……国の恥が詰まっているようで本当にお恥ずかしい限りなのですが」
「「本当に申し訳ありません……」」

 私だけでなく、私の護衛としてついてきているアーカーとエルワーズも心底申し訳なさそうに頭を下げる。
 本当に、本当に情けがなくて……。
 ディブレは「いえいえ」と愛想笑いで許してくれたが、ケビンには私たちがかいた恥を倍にして返さないと許せない。

「聖女ルナーシャには再三、婚約を断られているのにまだこんなことを言っているのです。おそらくこの文書も陛下に許可も取らず、ケビン殿下が勝手に言って、商会が殿下への忖度で行ったことなのでしょう。ですから、わたくしが陛下に直接文書の無効を取りつけてまいります。いっぺん黙らせないと、この先も権威を私情に用いてアーレシュア王国そのものの迷惑となりかねませんので」
「お国に戻られるのですか?」
「ええ。[瞬間転移]ですぐ行ってすぐ帰ってきますわ」

 あのストーカー、ルナーシャが喜ぶと思ってドレスやらなにやらをプレゼントしてくる。
 多分今回も用意して来ることだろう。
 私も一応ドレスは持って行く。
 どこかのアニメで言ってたけれど、ドレスは女の戦闘服。
 ケビンをけちょんけちょんにするには、戦闘服が必須。

「私も一緒に行ってもよろしいでしょうか」
「はい? ディブレ様が、ですか?」
「はい。一方的に助けられるのは申し訳がありません。国を統べる者として私はまだまだ未熟でしょうが、アーレシュア王国の国王陛下には聖人様と聖女様、そしてレイス様たちを派遣してくださったお礼を直接申し上げたいのです」
「ふむ……」

 確かにそれは普通のこと。
 なんなら一回手紙で済ませてもいい気はするけれど……まあ、でも直接お礼を言うのは国同士でもいいこと。

「そうですね。いいと思います。そうだわ、ディブレ様が来られるのでしたら、こちらを陛下に直接手渡しされるといいかもしれません」
「これは……?」

 テーブルの上に一本の小瓶を差し出す。
 濃いピンク色のそれは、ジュエバリーを煮詰めて魔力を注いだ『斑点熱』の特効薬。
 今後アーレシュア王国に限らず、人間の国で流行る季節が来る。

「これをアーレシュア王国に送りたいのです。しかし、まだ試薬も済んでいませんし、ディブレ様が陛下に直接渡すのが効果が高いと考えています」
「私が? どういう効果があるのですか?」
「まず、名目は一番シンプルな支援のお礼。二つ目は“利益”。『魔族国を助けると、こんないいことがありますよ』という利益の明確化。売り込みの意味がありますね。三つ目は“可能性の示唆”。『引き続き支援をいただければ、今後も新しい特産品を作って交易ができます』と期待を持たせることができます。四つ目は“舐められないため”。『国の王が直々に交渉ができる』と見せつければ、アーレシュア王国の商会から足下を見られることがなくなるでしょう。それは国の民を守ることになります。商人に足下を見られれば、国民が理不尽な要求をされなくなりますからね」
「国交、ということですね」
「そうです」

 本来なら国交官を据えればよいのだろうが、今の魔族国にそこまでの余裕はない。
 族王であるディブレがこの様子なのだから、国同士の腹の探り合いはまだ無理だろう。
 魔族国の族王がアーレシュア王国の陛下と直接のやり取りをした、という事実があるだけで、かなり違うということだ。
 商人はまず上から目線で入る。
 しかしその前に『国王陛下と直接取引した経験がある』という事実があれば手のひらを返したように下手に出て来るから。
 それに、いっぺん“国王”というものを直接見てみた方がいい。
 ディブレはあまりにも“一般人”っぽいもの。
 いや、なんかこう……人がよすぎる上司、みたいな。
 アーレシュア王国の陛下を見て参考にしてほしい。
 もちろん、実際お会いする時は私もサポートするけれど。