両親とともにルナーシャ、アルカも連れて用意された別室とやらに移動する。
私の両親は非常ににこやかに席に着いたけれど、笑っているのは顔だけね。気持ち悪い。
「待たせたな」
両親が座ってお茶が出されたタイミングで国王陛下と王妃様、ケビン殿下が入ってきた。
陛下の疲れた表情と、王妃様の険しい表情。
そしてぶーたれたケビン。
ああ、なんかもう……。
「まず、うちのケビンが馬鹿なことを言った。婚約はどうか続けてはくれまいか?」
「父上! 私は聖女との結婚を望みます! もとより王族は『聖者の紋章』を持つ者が生まれたら、その者を王族に迎え入れるのが習わし! 私はルナーシャと結婚します!」
「嫌です!」
「わたくしもケビン殿下が嫌だ嫌だとおっしゃるのに婚約を続けたくはございませんわ」
「レイス」
父が私の方を見る。
まるで咎めるように。
困ったわ、両親は私がケビンと結婚するのを望んでいるのね。
仕方ないわね。
「そもそも、わたくしにも王位継承権があるのがよくないのでは? お母様が陛下のお姉様であるが故に、わたくしを次期女王に推す声があると聞きましたわよ。殿下はそれを危惧して、わたくしを国から追い出したいのではございませんか?」
「うっ」
「なに? そのようなことを申す派閥が? ……ううむ……」
なんと意外。陛下はご存じではなかったのね。
両親は笑顔のまま黙り込むが、この仕事大好きワーカホリック夫婦こそがその派閥の長。
当たり前でしょう、公爵夫婦なのだから。
王妃様も気がついてはいるだろうけれど、表だった動きをまだしていないから目を瞑っていた。
でも、その層の動きは私が魔王討伐パーティーの一員となったからこそ活発化していくだろう。
だからある意味、ケビンの起こした今回の騒動は私としても願ったり叶ったりなのだ。
「わたくしは殿下と王位を争うつもりは毛頭ございません。ですから婚約破棄については了承くださいませ、陛下」
「しかし……そなたは本当にそれでよいのか?」
「はい。まあ……本音を申せば殿下の面倒を見るのが本当にだるくって」
「おい! 不敬だろ!」
「まあそうか」
「それは仕方ないわね」
「父上!? 母上!?」
おわかりいただけたようでなによりだ。
「だからってわたしにこんなの押しつけないでよ、レイス!」
「まあ、それはそうよね。ルナーシャはそもそも王妃教育そのものを受けていないのだし」
「そうだよっ!」
「そんなものは今から覚えれば――」
「よしなさいケビン! しつこい男は嫌われるわよ! あなたは振られたのです! いつまでも縋るものではありません!」
私の腰に抱きついてくるルナーシャ。
頭を撫でていると、ケビンがまたソファーから立ち上がる。
いちいち大声を立てるのも嫌だけれど、ルナーシャへのこの執着はなんなのだろう?
攻略対象としての、強制力のようなものなのだろうか?
王妃様に叱りつけられてなぜか私を強く睨みつけつつソファーに座り直したけれど……これはまったく納得いっていないようだ。
「あなたの妻には何人かの令嬢を用意します。あなた一人でこの国を支えていくことは無理ですからね。はあ、レイスほどの淑女ならば、一人でも十分国を支えてくれると思っていたのだけれど……」
「このままケビンの婚約者にしておけば、レイスの王位継承権を主張する者とケビンを支持する層との衝突は避けられぬということか。それならばいずれレイスの命を狙う者も現れるかも知れぬな」
「では、王都に置いておくのは危険ね。トゥワイエット公爵、公爵家には別荘はないのかしら? 一時的にでもレイスを避難させた方がいいと思うのだけれど」
意外。
陛下と王妃様は本気で私を心配してくれている。
しかし、反対に私を女王にしたいと考えていた両親は表面上悩むふりをしている。
なんで完璧な演技。
[鑑定スキル]持ちの私じゃなかったら見逃しちゃうわね。
「郊外に一つ。しかし、そちらは今祖父母が使っていますね」
「そ、そう。では王家保有の別荘を――」
「お待ちください」
せっかく魔王を倒してエンディングを迎えたはずなのに、なんだかちっとも『めでたしめでたし』な雰囲気じゃない。
ルナーシャが攻略対象と結ばれることのないノーマルエンディングって、こんなにら殺伐としてたっけ?
なんかこう、もっと明るい感じで『新しい明日がやってくるぞ⭐︎』みたいな感じだったはずなのに。
私のせい? 私がルナーシャの気持ちを受け入れなかったから?
だって私、レイスルートのエンディング好きじゃないんだもん。
レイスルートのエンディングは、ルナーシャがケビンと結婚して王妃になるから王都に残る。
私はケビンと結婚したくないし、ルナーシャは学園にいた頃から『いつか故郷に帰りたい』と泣いていた。
私よエンディングは、幸せそうなスチルの裏で誰の望みも叶わない。
それなら私のルートエンディングではなく、誰か他の攻略対象と彼女の故郷で幸せになるエンディングを迎えてほしいと思うのは当たり前じゃない?
……親友の幸せを願うのは、普通のことでしょう?
「わたくしはこの国を出たいと思っております」
「な!? なぜ!?」
「旅をして思ったのです。もっと自分の力を活かせるところがあるのではないか、と。わたくし、自分を試してみたいのです」



