そんな異常に慣れている自覚はあるからまだ平穏に慣れている彼らに従った方がましだろう。
一旦魔族国の首都に当たる中心の町アガレスに向けて馬車を走らせる。
魔族国は狭い。
定期的に魔物が襲ってくるが、通常の魔物なら魔法が通じる。
大型なものが出てくれば、血抜きして捌いて肉として[空間倉庫]に保存しておけるのだけれど。
「それにしても、道があってないような状況だな。この方角で合っているんだよな? レイス嬢」
「ええ」
「あのー……定期的に大きなクレートが空いているんだけれど……あれは汚染魔物と戦った痕跡、ですか?」
「どうかしら? 魔王と戦った時の魔法被害かもしれないわね。……そうね、ああいう戦闘痕も埋め立てていかなければ」
道は石畳が剥がれ、穴だらけ。
整地して敷き直さなければいけないわね。
道があればディニーラへの交易もしやすくなるもの。
人の行き来が楽になれば、復興もスピーディーにできる。
そうね、まずは整地と街道の整備かしら。
今度から地面に空いた穴があったら[大地重圧]で整地していこう。
「見えてきた! もしかしてあれが中心の町アガレスか!?」
「ええ、そうね」
「想像よりも大きい……! それに、まるで要塞だ」
「まあ、たとえ強固な外壁に覆われていても上空から飛び込んでくるタイプの汚染魔物には無意味なんだけれどね」
そう返答すると二人に微妙な表情で見られる。
真実しか言っていないのになぜ?
「どこから入るんだ?」
「一周してみるしかないんだろうか?」
「道が破壊されていて入口がわからなくなっているのね。真っ先にやるのは中心の町アガレスの街道整備ね。正門にすぐ辿り着けるように」
メモメモ。
ただまあ、まずアガレスに入る場所は実際周回して探さねばならない。
馬車を左回りで壁沿いに進ませると、馬が限界を迎えつつあることに気がついた。
人間以外の生き物も、魔族国の自然魔力の影響を強く受ける。
だから魔族国には魔族国特有の家畜しか育たないのだ。
アーレシュア王国で借りた馬は頭を下げて、息を荒くする。
だいぶ可哀想だった。
忘れていて申し訳ないので、馬の周りだけ魔力濃度が下がるよう結界を張ってやる。
アガレスに入ったらしっかりと休ませないと。
「あった! あれが正門か!」
「なんという堅牢な……」
「でもひしゃげているわね。開くのかしら?」
数分走らせると、歪んだ黒鉄の門が見えてきた。
これ、開くの?
普通扉って歪んでいたら開かないわよね?
と、思っていたら隣の石壁の一部が突然開く。
あれ、壁じゃなくて石と同じサイズの窓だったのね。
「誰だい? 旅人か? アガレスは今閉鎖中だぞ」
「初めまして。わたくしはアーレシュア王国から派遣された魔族国再建を目的とした国治官、レイス・トゥワイエットと申します。族王ディブレ・グロイズ様は町にいらっしゃるかしら? おそらく手紙はすでに届いていると思いますの。魔族国再建についての詳しい話をしたいのですが」
「アーレシュア王国の……? な、なんだ? 我が国を属国にでもしようというのか?」
「それを決めるのはあなたではございませんでしょう? たとえ属国になるかならないかの話が出ていたとしても、アーレシュア王国側としたら魔族国にはまず立ち直っていただかなければなりませんもの。少なくとも敵ではありませんわよ」
そう言うと、石窓から見えていた顔は歪む。
無言で窓が閉められ、仕方なく数分待つことになった。
再び小窓が開き「しばし待たれよ」とだけ言われてまた待たされる。
普通ならば使者に対して失礼なのだが、事前にアガレス、族王ディブレ陛下宛に手紙は出してあった。
返事が来る前に出発してしまって、到着しているので彼らの反応は無理もないものだ。
おそらくは私が『手紙を出している』という点での確認中なのだろう。
「失礼、レイス・トゥワイエット様でいらっしゃいますか? それを証明するものはお持ちでしょうか?」
「これを」
差し出したのは魔族国の紋章がついた指輪。
目を見開く兵。
これは以前、魔族国を旅して中心の町アガレスを訪れた時にディブレから貰ったもの。
「わたくしは三週間近く前に魔王討伐の旅をしてディブレ様にお会いしていますの。その時賜ったものですわ。アガレスは魔王討伐まで閉鎖し、ディブレ様は魔族国を巡り同胞を一人でも多く護り救うとおっしゃっておりましたね。アガレスにおられないのであれば、今どちらにいらっしゃるのでしょうか? 教えていただければ直接探しに行きますわ」
「――今、扉を開けます。お入りください」
馬車が入れる程度の空間が開く。
ああ、この黒鉄の扉は魔物侵入を防ぐためのもの。
歪んでいても関係ない。
[空間倉庫]の応用、空間の通り道を作れば扉が歪んで開かずとも馬車を通すことは可能。
アーカーが困惑して振り返るので「進んでも大丈夫よ」と促す。
「こ……ここれが魔族国か……」
「アーレシュア王国の王都ととても似ていますね」
「隣国だもの、ディニーラを通して文化は似ているのよ」
町に入ると王都のような町並みが見えてきた。
違うといえば平民であっても魔道具を生活に取り入れているくらいだろうか。
アーレシュアの人間と違って魔族国――いえ、魔族は全員が魔力を有している。
だから魔族国の“族王”は魔力の保有量で決まるそうだ。



