鉾先鈴を振り上げて、蒼麻と熊に駆け寄った。
そのとき、桃を持っていないにも拘らず、確かに桃の香りがした。
いつもの乾燥させた桃の香りとは違って、もぎたてのような瑞々しい香り。
その香りをかいだ途端、自分がどうすればいいのかを悟った。
誰かに教えてもらったわけではない。
自分でも不思議だけれど、でも確かに分かった──
右手に真っ直ぐ立てた鉾先鈴を、左手に少し弛ませるようにした五色緒を持つ。
そうして私は神楽舞を舞った。
鈴の音が響く度に、桃の香りは濃くなる。
熊は1歩、2歩、……とよろよろと倒れるように後退していく。
と、刀が腹から抜けた。
「蒼麻!」
「分かってる」
蒼麻が魔の気を切る。
(今だ!)
私は地面に転がっている干し桃を拾い上げて放る。
熊の体は瓦解し、砂となり、やがて溶けるように消えてなくなった。



