月と花のエレジア

部屋の空気が凍りつく。

「……どういう意味だ」

エリアスの声は低かった。

静かな怒気が滲んでいる。

けれどアシュレイは、
まるで楽しむように笑った。

「そのままの意味だよ」

窓辺に腰掛けたまま、
彼はエルシアを見つめる。

金色の瞳。

どこか憐れむような視線。

「君のその花魔法は、“祝福”じゃない」

「……っ」

エルシアの指先が震える。

花びらが、
ぱらりと零れ落ちた。

アシュレイは静かに言う。

「それは命を喰う力だ」

その瞬間。

ノアが鋭く前へ出た。

「それ以上、姫様を惑わせないでいただけますか」

「惑わす?」

アシュレイは目を細める。

「僕は真実を言ってるだけだよ」

「黙れ」

次の瞬間、
エリアスの魔力が溢れた。

月光のような青白い光。

床に魔法陣が広がる。

部屋の温度が一気に下がった。

しかしアシュレイは微動だにしない。

「さすが月光の君」

彼は笑う。

「でも君は、
まだ彼女を何も知らない」

「……何を知っている」

エリアスが睨む。

するとアシュレイは、
ゆっくりエルシアへ手を伸ばした。

「君は時々、
花の夢を見るだろう?」

エルシアの呼吸が止まる。

「っ……!」

「白い花に埋もれて、
息ができなくなる夢」

どうして。

どうして知っているの。

エルシアの顔が青ざめる。

それは誰にも話したことのない悪夢だった。

幼い頃から、
何度も見る夢。

白い花。

絡みつく蔦。

そして、
誰かの泣き声。

アシュレイの声が静かに響く。

「その病は、
少しずつ君を花に変えていく」

「やめろ」

エリアスが遮る。

けれどアシュレイは止まらない。

「最後には心臓まで花になる」

エルシアの瞳が揺れる。

「そんな……」

「でも安心して」

アシュレイは微笑んだ。

優しいくらい穏やかに。

「君を救う方法はある」

その瞬間。

エリアスの瞳が鋭く細められる。

「……代償は何だ」

アシュレイは少しだけ黙った。

夜風がカーテンを揺らす。

そして彼は、
静かに囁く。

「エクリシアへ来ること」

部屋が静まり返る。

ノアが険しい顔をする。

エリアスの魔力がさらに強まった。

だがアシュレイは、
ただエルシアだけを見ていた。

「選んで、花冠の姫」

その笑みは、
甘くて危険だった。

「このまま枯れるか」

彼の背後で、
黒い闇が揺らめく。

「……僕と生きるか」