月と花のエレジア

黒花の中で、
“花姫”は静かに立っていた。

白い髪が、
闇の中で揺れている。

その姿は、
エルシアと酷似していた。

けれど。

彼女から溢れる魔力は、
悲しいほど冷たい。

『返して』

金色の瞳が、
まっすぐエリアスを見つめる。

いや──

違う。

彼女が見ているのは、
“エリアスの奥”だった。

『私の月を』

その瞬間。

エリアスの胸元が、
淡く光った。

「っ……!」

彼が眉を寄せる。

するとルクスが、
静かに目を伏せた。

『やはり、
継承されているか』

「どういう意味だ」

アシュレイが問う。

ルクスは低く答えた。

『ルナリア王家は代々、
“月王の魂”を受け継ぐ』

神殿の空気が震える。

『エリアスの中には、
私の力と記憶が眠っている』

エルシアが息を呑む。

だから。

だから花姫は、
エリアスを見た瞬間──

「……ルクスだと思った」

ルクスは静かに頷いた。

花姫が、
ゆっくりエリアスへ歩き出す。

黒花が咲く。

床が侵食されていく。

『どうして』

花姫の声が震える。

『どうしてまた、
私を置いていったの』

その悲しみは、
聞いているだけで胸が痛くなるほどだった。

エリアスは黙ったまま、
彼女を見つめている。

すると突然。

エルシアの胸が、
ズキンと痛んだ。

「あ……っ」

大量の記憶が流れ込む。

月夜。

花畑。

笑い合う二人。

そして最後。

血に染まった白花の中で、
泣きながら月王へ手を伸ばす花姫。

『行かないで』

震える声。

『一人にしないで』

涙が止まらない。

エルシアは膝をついた。

「エルシア!」

エリアスが駆け寄ろうとした瞬間。

──ブワッ!!

黒花が、
彼の前へ壁みたいに広がる。

『触らないで』

花姫だった。

金色の瞳が揺れている。

『その子は、
私じゃない』

空気が凍る。

エルシアの心臓が痛む。

すると花姫は、
苦しそうに胸を押さえた。

『なのに、
同じ顔で笑わないで』

黒花が暴走する。

神殿中に、
絶望みたいな魔力が広がった。

「まずい!」

アシュレイが叫ぶ。

「感情に封印が引っ張られてる!」

ネフィラも魔法陣を展開する。

だが止まらない。

するとその時。

エルシアが、
ゆっくり立ち上がった。

涙を拭いながら。

「……違う」

小さな声。

でも、
はっきりしていた。

花姫が動きを止める。

エルシアは、
真っ直ぐ彼女を見る。

「私はあなたじゃない」

金色の瞳が揺れた。

「でも、
あなたを一人にはしない」

静寂。

その瞬間。

花姫の瞳から、
ぽろりと涙が零れ落ちた。