月と花のエレジア

──バキンッ!!

鎖のひび割れる音が、
神殿中へ響き渡った。

「っ……!」

エルシアの胸が苦しくなる。

巨大な白花が、
不気味に脈打っていた。

まるで心臓みたいに。

「封印が崩れる!」

アシュレイが叫ぶ。

ネフィラも即座に魔法陣を展開した。

黒い魔力が、
鎖へ絡みつく。

しかし。

──ミシ、ミシ……

ヒビは止まらない。

ルクスは静かに目を伏せた。

『……もう限界か』

その声は、
どこか諦めているようだった。

エルシアは思わず叫ぶ。

「待って!」

全員が彼女を見る。

エルシアは震える手を握り締めた。

「封印したら……
また同じことになるんでしょう?」

ルクスは答えない。

けれど沈黙が、
答えみたいだった。

「嫌です」

涙が滲む。

「そんな終わり方」

また愛して。

また失って。

また封じるなんて。

そんなの悲しすぎる。

するとルクスは、
少しだけ目を細めた。

『……お前は優しいな』

「違います」

エルシアは首を振る。

「私はただ、
大切な人たちと一緒にいたいだけです」

その瞬間。

エリアスが、
そっと彼女の手を握った。

温かい感触。

彼は静かに言う。

「なら、
そうすればいい」

エルシアが顔を上げる。

月光の瞳。

真っ直ぐな視線。

「繰り返しなんて、
終わらせる」

その声は、
迷いがなかった。

するとルクスは、
驚いたように目を見開く。

そして、
ふっと笑った。

『……本当に似ている』

その時だった。

──ドクン。

巨大な白花が、
再び激しく脈打つ。

次の瞬間。

黒い闇が、
花の中心から溢れ出した。

「っ!?」

それは魔力だった。

重く、
禍々しく、
底なしの絶望みたいな力。

神殿の花が、
一瞬で黒く染まる。

ネフィラが舌打ちした。

「来ます!」

咆哮。

巨大な黒花が、
天井を突き破る勢いで咲き乱れる。

その中心で。

ゆっくりと、
“誰か”が目を開いた。

白い髪。

金色の瞳。

黒花のドレス。

その姿は、
エルシアによく似ていた。

けれど。

決定的に違う。

その瞳には、
絶望しかなかった。

『──返して』

低い声。

神殿が揺れる。

『私の、
月を返して』

エルシアの背筋が凍る。

ルクスが険しい顔になる。

『……花姫』