月と花のエレジア

月と花の神殿を満たしていた暴風は、
静かに消えていた。

黒花も、
侵食していた蔦も、
まるで夢だったみたいに崩れていく。

残ったのは、
白い花びらだけ。

月光の中、
エリアスはエルシアを抱き支えていた。

「……気分は」

低い声。

エルシアはぼんやり彼を見上げる。

近い。

近すぎる。

さっき額に触れた感触を思い出し、
一気に顔が熱くなった。

「っ……だ、大丈夫です」

「顔が赤い」

「それは……!」

言葉に詰まる。

すると少し離れた場所で、
ルキアがニヤニヤし始めた。

「兄上、
めちゃくちゃ王子様みたいだった!」

「みたい、ではなく王子だ」

レオニスが冷静に返す。

けれどその口元は、
少しだけ緩んでいた。

シエルは半泣きで、
エルシアへ飛びつく。

「姉上ぇぇぇ!!」

「わっ」

「もうダメかと思った……!」

「ご、ごめんなさい」

「謝らなくていいですわ!」

今度はリゼットまで抱きついてくる。

「ほんとに心臓止まるかと思いましたのよ!?」

「リゼットまで……」

その光景を見て、
ノアが静かに微笑んだ。

ようやく、
全員の空気が少し緩む。

けれど。

「……まだ終わってない」

アシュレイの声で、
空気が再び静まった。

彼は神殿の奥を見つめている。

その先には、
巨大な白い扉。

花と月の紋章が刻まれていた。

ネフィラが険しい顔になる。

「封印核……」

エルシアの胸がざわつく。

あの扉の向こうに、
“何か”がある。

そう直感した。

すると突然。

──ドクン。

扉が脈打った。

「っ……!」

エルシアの花魔法が反応する。

白い花びらが、
勝手に扉へ向かって舞い始めた。

アシュレイが顔を上げる。

「……来る」

次の瞬間。

ゴゴゴゴ……

巨大な扉が、
ゆっくり開き始めた。

神殿の奥から、
眩い光が溢れる。

そしてその中心にあったのは──

一本の巨大な白い花だった。

月光を浴びながら、
静かに咲く神秘の花。

その周囲には、
無数の鎖。

まるで、
何かを封じ込めるみたいに。

エルシアは無意識に呟く。

「……綺麗」

その瞬間。

花が、
ゆっくり開いた。

そして中から現れたのは──

白銀の髪を持つ、
青年の幻影だった。