月と花のエレジア

怪物の咆哮が、
神殿を揺らした。

黒花が嵐みたいに舞い上がる。

赤い瞳。

無数の蔦。

花で出来た巨体。

それはまるで、
“呪いそのもの”だった。

「っ……!」

エルシアは後ずさる。

だが怪物は、
真っ直ぐ彼女を見ていた。

まるで──迎えに来たみたいに。

『逃げて!!』

花姫がエルシアの手を掴む。

その瞬間。

──バキィン!!

神殿の入口が砕け散った。

「エルシア!!」

月光が夜を裂く。

飛び込んできたのは、
エリアスだった。

白銀の髪を揺らし、
彼は迷わずエルシアの前へ立つ。

「無事か」

「エリアス様……!」

安堵した瞬間、
涙が零れそうになる。

だが怪物は止まらない。

黒い蔦が、
一斉にエリアスへ襲いかかった。

「殿下!!」

レオルが剣を抜く。

ザンッ!!

銀閃が走る。

しかし切っても切っても、
蔦は再生していく。

「再生が早すぎる!」

アシュレイが舌打ちする。

ネフィラは神殿を見上げ、
険しい顔をしていた。

「封印核が暴走しています」

「止める方法は!?」

レオニスが叫ぶ。

すると花姫が、
静かにエルシアを見た。

『あなたしかいない』

「え……」

『花姫の力を受け入れて』

その瞬間、
エルシアの胸が強く脈打つ。

黒花が、
腕へ絡みついていく。

怖い。

でも──

「嫌……っ」

花になるのは怖い。

自分じゃなくなるのが怖い。

すると怪物が、
咆哮と共に神殿を揺らした。

巨大な黒蔦が、
真っ直ぐエリアスへ伸びる。

「っ!」

避けられない。

そう思った瞬間。

エルシアの身体が、
勝手に動いた。

「だめ!!」

ブワッ──!!

白い花が爆発みたいに咲き乱れる。

光。

花。

月光。

世界が白く染まった。

次の瞬間。

怪物の蔦が、
一斉に停止した。

全員が息を呑む。

エルシアの周囲には、
巨大な白百合が咲いている。

そして彼女の瞳は──

淡く、
金色に染まっていた。

「……エルシア?」

エリアスが呟く。

するとエルシアは、
ゆっくり怪物を見上げる。

その表情は、
どこか別人みたいに静かだった。

『──眠りなさい』

優しい声。

なのに絶対的な力を持つ声。

その瞬間。

怪物の身体が、
花びらになって崩れ始めた。