月と花のエレジア

星花の神殿は、
フィオレリアとルナリアの国境──

“眠りの森”の最奥に存在していた。

誰も近づかない禁域。

昼でも薄暗く、
白い霧が漂う森。

まるで世界から切り離された場所みたいだった。

「……ここ、
本当に大丈夫なの?」

シエルが小声で呟く。

その隣でルキアは、
興味津々に辺りを見回していた。

「なんか冒険って感じ!」

「お前は少し緊張感を持て」

レオニスが呆れた声を出す。

その少し後ろを、
エルシアは静かに歩いていた。

隣にはエリアス。

彼は自然な動きで、
エルシアを庇う位置にいる。

「疲れてないか」

「……大丈夫です」

そう答えるものの、
胸の奥がざわついていた。

この森に入ってからずっと、
誰かに呼ばれている気がする。

『おいで』

優しい声。

けれどどこか悲しい。

その時だった。

「止まって」

先頭を歩いていたアシュレイが、
突然足を止める。

全員が警戒する。

次の瞬間。

──ギィィィ……

森の奥から、
不気味な音が響いた。

木々の間から現れたのは、
黒い蔦だった。

まるで蛇みたいに蠢きながら、
こちらへ伸びてくる。

「っ!」

レオルが即座に剣を抜く。

「下がれ!」

ザンッ!!

銀の刃が、
黒蔦を切り裂く。

だが次々に、
地面から蔦が溢れ出した。

「うわっ!?」

ルキアが飛び退く。

ネフィラが冷たく呟く。

「封印の影響ですね」

「……もう神殿が反応してる」

アシュレイの顔が険しい。

黒蔦は、
まっすぐエルシアを狙っていた。

まるで迎えに来たみたいに。

「エルシア!」

エリアスが彼女を抱き寄せる。

その瞬間。

ブワッ!!

エルシアの周囲に、
白い花が咲き乱れた。

花と蔦がぶつかり合う。

白と黒。

相反する力。

しかし次第に、
白花が侵食され始める。

「まずい!」

アシュレイが叫ぶ。

「まだ封印に近づきすぎるな!」

その時。

エルシアの頭の奥で、
声が響いた。

『──来て』

懐かしい声。

泣きそうな声。

そして次の瞬間。

エルシアの足が、
勝手に動いた。

「え……」

誰にも止められない。

白い花びらが舞う。

霧の奥へ。

森の最深部へ。

「エルシア!!」

エリアスが手を伸ばす。

だが届かない。

霧が一気に濃くなり、
エルシアの姿を飲み込んでいく。

その奥で。

ぼんやりと、
巨大な白い神殿が見えた。

そして神殿の前には──

白いドレスを纏った、
“エルシアと同じ顔の少女”が立っていた。