続 追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す

眠そうな声で旭が言った。

「もう、眠れない。やっぱご飯作って」
「はい、分かりました。じゃ、台所をお借りします」
「どうぞ」
「えーっと、台所はどこですか?」
「こっち」

旭が案内する後ろに着いて行った。台所は案外、今風でアイランドキッチンになっていた。

それに冷蔵庫は1人なのに大きい。これは料理出来る人のキッチンだと藍は思った。それか家事代行が来ているのだろうかと考えた。

どちらにしても美味しい物を食べているだろうから困る。藍は料理が得意でない。何とか口実を作って連載の話をするための朝食だ。苦肉の策で味噌汁と玉子焼きにすれば下手な料理でも何とかなりそうな気がした。

「冷蔵庫開けます」
「どうぞ。ご飯は冷凍室にあるので、レンジ使ってください」
「はい、ご飯を冷凍しているなんて、お料理するんですか」
「うん、料理するのが好きだから」
「男子が料理って、モテそう」
「モテるよ」
「自信満々なところがいいですね」
「何。自意識過剰って言いたい?」
「いえいえ、何でも自信を持つことは、いいことですよ」
「ねぇ、さっきから手が動いてないけど、何作ってくれるの?」
「はい、具沢山味噌汁と玉子焼き」
「お腹空いたから早く作って」
「はいはい」

鍋やフライパンが、どこにあるか聞いて用意し作り始めた。旭は何気なく冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターのペットボトルを取って、ダイニングテーブルの椅子に座って藍を見ていた。

アイランドキッチンがダイニングテーブルに面してる。旭の監視のもとで料理を作る状態だ。居心地が悪い。よく目が合うのはやりにくいと思わずにはいられない。

ふと旭を見るとミネラルウォーターを飲んでいる姿は、学生らしい若さが感じられた。これが売れっ子の小説家なんて思えないほど、あどけない。