恋をしたのは、危険な人でした。

黒い車が、家の前に止まっていた。
見たこともないような、黒塗りの高級車。
さっきまでいた家とは、どう見ても似合ってなかった。
それだけで、なんだが落ち着かない。

「乗れ」
短い一言。

あたしは何も言わず、後部座席に乗り込んだ。
ドアの閉まる音が、やけに重く響く。

ーーもう戻らない。そう決心した。

車が静かに走り出す。
見慣れない街並みが、ゆっくりと後ろに流れていく。
いつの間にか、日がすっかり落ちていた。
街灯が一つ、また一つと灯っていく中で、あたしの知ってる世界が、遠ざかっていく気がした。

学校も、家も、あたし過去も。
全部、置いていくみたいに。

「......怖いか」

不意に、声が降ってきた。
少しだけ考えてから、あたしは頷いた。

「......怖いです」
正直に言った。
強がる意味なんて、ここにはない気がしたから。

すると勝也は、ほんの少しだけ口元を緩めた。

「それでいい」

「......えっ?」

「恐怖を忘れるな。それが、いずれお前を守る」

その言葉が、どこか重くて、でも妙に現実的だった。
しばらく、沈黙が続いた。
やがて、車は大きな門の前で止まった。

「着いたぞ」

目の前にあったのはーー