放課後の教室は、少しだけオレンジ色に染まっていた。

窓際の席で、**結城 澪(ゆうき みお)**はノートを閉じる。帰るタイミングを逃して、なんとなく残ってしまっただけだった。

「まだいたんだ」

後ろから声がして振り向くと、**高瀬 恒一(たかせ こういち)**が立っていた。部活帰りらしく、少しだけ息が上がっている。

「うん、ちょっと…ぼーっとしてた」

「珍しいな。いつもすぐ帰るのに」

そう言って、彼は隣の席に座る。近い距離に、澪の心臓が少しだけ速くなる。

沈黙が落ちた。

でも、不思議と気まずくはなかった。

「さ、最近さ」
澪がぽつりと切り出す。

「なに?」

「…なんでもない」

言いかけてやめると、恒一は少しだけ笑った。

「それ、一番気になるやつ」

「ほんとに大したことじゃないから」

「じゃあ当てていい?」

そう言って、少しだけ顔を覗き込まれる。

「……好きなやつの話」

一瞬、時間が止まった気がした。

「ち、違うし」

「顔赤いけど」

図星だった。

でも、それ以上に――
“その好きな人が目の前にいる”ことを、どうしても言えなかった。

「じゃあさ、俺の話していい?」

不意に恒一が言う。

「え?」

「俺、好きな人いるんだよね」

胸が、ぎゅっと縮まる。

聞きたくない。
でも、聞かないわけにもいかない。

「…誰?」

声が少しだけ震えた。

恒一は少し考えるふりをしてから、こう言った。

「今、俺の隣にいる人」

夕焼けよりも、ずっと赤くなったのは――
きっと、空のせいじゃなかった。

澪はしばらく何も言えなくて、ただ俯く。

「…それ、ずるい」

やっと出た言葉に、恒一が笑う。

「なんで?」

「だって…私も同じだったのに」

静かな教室に、二人の笑い声が少しだけ響いた。

チャイムはもう鳴らない。

でもその日、二人の中で何かがちゃんと始まった。