普通で、特別で、バカみたいに愛おしい。




「……はるかちゃん、本当に来ちゃったんだね」



マンションの前。少し息を切らした私を見て、しょうごくんは一瞬だけ、泣きそうな顔をした。

驚きと、それ以上の喜びが混ざったような、くしゃくしゃの笑顔。



彼は何も言わずに私を抱き寄せた。

コート越しでもわかる、彼の力強い鼓動。




「……俺、もう一生、大事にするから」

耳元で囁かれた誓いに、私の理性が完全に溶けていくのがわかった。





部屋に入ると、彼は「とりあえずこれ、着てなよ」と、洗いざらしのスウェットを貸してくれた。

着替えてみると、首元がゆるく開いて、私の肩が簡単に覗いてしまう。
袖から手が出ないほど大きな、彼の匂いのする布。

動くたびに、彼の体温に直接触れているような錯覚に陥って、めまいがした。


(彼の匂いが、私の肌に染み込んでいく……)


鏡に映った自分の顔は、ゆで上がったみたいに真っ赤だった。




「お腹、空いたでしょ。男飯だけど、カレー食べる?」


キッチンに立つ彼の背中は、昨日よりずっと大きく見えた。

「自炊、してるんだ……」

「はるかちゃんに食べてもらえるなんて光栄です」
なんておちゃらけながら差し出されたお皿。


そこには、不器用に、でもゴロッと大きく切られたジャガイモが並んでいた。


(……あ、これ、しょうごくんの手の大きさだ)


口に運ぶと、じっくり煮込まれた甘さと、野菜のゴツゴツした食感が口いっぱいに広がる。

お洒落なカフェのカレーより、ずっと、ずっと優しい味がした。


「……美味しい。すごく、美味しいよ」


気づけば、視界がじんわりと滲んでいた。


「あはは、泣くほど!? よかったー」


彼はおちゃらけて私の頭をポンポンと叩いたけれど。
ふいにその手が止まり、熱を帯びた指先が私の頬をなぞった。


「……はるかちゃん。明日、全部買いに行こうね。歯ブラシも、パジャマも、はるかさんの好きなもの」

彼は私の目をじっと見つめて、一言ずつ刻むように言った。





「ここ、全部、俺とはるかちゃんの家だからいつでも帰ってきていいからね」






28歳の冬。服一枚すら持たずに飛び込んだ場所。

そこには、私の想像を絶する、甘くて、不器用で、全力の愛が待っていた。