この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

「こちらですね」

 ダイニングに到着するとドリーは扉を開けた。
 開けた先の天井には大きなシャンデリアが吊るされていた。長いテーブルに椅子がずらりと並んでいる。

 だが、誰一人として座ってはいなかった。

「おかしいですね。ここで朝食だとお聞きしたのですが」

 ドリーが困惑した表情を浮かべていた時、ダイニングの奥の扉が開いた。
 私たちの姿を見て、おや、といった表情を浮かべる。そしてそのまま近づいてきた。

 クセの強い赤茶色の髪に、勝気さを思わせる釣り目。女性にしては背が高く、スラリとしている。服装からいってメイドだろうか。

「はじめまして、シャルロット様。私、このカロン侯爵家に親子二代勤めております、ミーシャ・ヘイロンと申しますわ」

 やけに自信たっぷりに挨拶をされた。

「ええ、はじめまして、ミーシャ」
「ところでシャルロット様、ここにはどういったご用件ですか?」

 ずけずけと物を言う女性だ。だが気にせず、微笑んだ。

「こちらで朝食だと聞いていたので」

 するとミーシャはわざとらしく、大きなため息をついた。

「シャルロット様、今、何時かおわかりですか?」

 時計はまだ九時を回ったばかりだった。実家での朝食はいつも九時には食卓についていれば間に合ったので、その感覚だった。

「朝食は七時と決められているのです。もう皆さん、とっくに朝食を摂り終え、イザーク様を先頭に魔物による被害がないか確認のため、巡回に行かれましたわ」

 北部は朝食の時間が早いのだと初めて知った。

「そうなのね、ここの朝食は七時なのね」
「ええ、そうです。どうせ呑気に寝ていられたのでしょうが、ここは南部と違って、ぐうたらな生活を送っていないのです。規律があるので乱さないでもらいたいです」

 ミーシャは額に手を当て、ハーッと深いため息をついた。

「妻として最低限、イザーク様に合わせるべきでないですか? お飾りの妻だとしても」

 言い放ったミーシャは勝ったといわんばかりに、フンッと鼻を鳴らした。

「失礼だ、貴様」

 その時、私をかばうように横から体を出したのはドリーだった。

「シャルロット様は南部一高貴なセバスティア侯爵家から王命により、嫁いで来られた身。敬うべきなのは当然のところ、面と向かって非難するとは北部の人間は礼儀を知らないのか」

 低く、怒りを押し殺したドリーの声が周囲に響く。

 ドリーはズイッと一歩前に出るとミーシャの顔をのぞきこむ。

 それも、今にもぶつかりそうなほどの、至近距離で。
 
 小柄なドリーは背が高いミーシャを見上げるが、決して引こうとはしない。目を細め、眉間に皺を寄せ、威嚇している。

 ああ、いけない。ドリーの怒りが頂点に達する前に、どうにかなだめないと。

「ドリー、いいのよ」

 努めて優しい声色を出すと、ミーシャがホッとしたのを感じた。

「ですがシャルロット様。この人間の無礼は許せません。メイドの分際で生意気な口を聞き、かくなるうえは死をもって償いを――」
「ドリー!」

 物騒な言葉を口にしようとするドリーを遮る。

 そしていくぶん放心状態のミーシャに、にっこりと微笑んだ。

「ごめんなさい。明日から七時には食卓についているようにするから。今日の分は部屋でいただくわ」

 もう片付けも終わったことだろうし、手を煩わせるわけにもいかない。

「ドリー、部屋に運んでちょうだい」

 ドリーは不満そうに唇を尖らせたが、渋々と従った。

「はい、シャルロット様。すぐにお持ちいたします」

 ドリーは突っ立っているミーシャを顎でしゃくる。

「聞こえなかったのか? 食事を用意して、今すぐに」

 ドリーににらまれるたミーシャはたじろぎながらも、ダイニングの扉の奥に消えた。

 一緒に見届けると、ドリーはクルリと私に顔を向けた。

「さあ、まずは部屋に戻りましょう。のちほど食事を取りにきますわ」
「ええ、そうね」

 ドリーと一緒に部屋に戻った。