この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

 イザーク・カロン侯爵は髪をグシャグシャとかきむしった。

「……あんたは真面目か」

 ポツリとつぶやいたので、にっこりと微笑んだ。

「ええ、真面目ですわ」

 そうよ、これが私の考えよ。

「つまり、イザーク・カロン侯爵は――」
「イザークでいい。あんたのその呼び方は、落ち着かない」
「……わかりました」

 私は息をスッと吸い込んだ。

「イザークはこの結婚に納得していない、ということですのね」

 彼の目を見つめ、はっきりと問いただした。

「……ああ、そうだ」
「理由をお聞きしてもよろしいですか?」

 イザークは少し肩を上げた。

「南部と北部を仲良くさせようだなんて、今さらな話だろう。俺たち北部だけでも、上手くやっていた。だいたい南部の人間なんて――」

 文句を言おうとしたのだろう。だが、目の前にいる私が南部の人間だと気づいたからか、ハッと口をつぐんだ。

 だが私はにっこりと微笑んだ。

「構いません。続けてください」

 少しバツが悪そうな顔をしたが、イザークは続けた。

「南部の人間は俺たち北部が日々魔物と戦い、必死になっているのに、その苦労を知らない。雪に閉ざされた閉鎖的な地方だと格下に見ているんだ」

 それは完全なる被害妄想だと思ったが、確かに命を脅かすことがない南部は楽天的に見えるのかもしれない。それは妬み、ともとれた。

「そんなことはないですわ」

 だが、はっきりと言い放った。

「北部での鉱物はとても価値があると聞きます。――たとえば、ネザークロウの洞窟とか」

 洞窟の名を出すと、イザークは険しい顔を向ける。

「その洞窟で採取できる結晶はとても価値があるとお聞きします。市場に出回れば、もっと北部も栄えるはずですわ。上手く採取する方法はないのでしょうか? 採取して南部で加工してから流通すれば、より生活が豊かになりますよね」
「……それが目当てなのか」
「はい?」

 イザークが低い声になり、警戒心をあらわにする。

「北部が採掘した鉱物を南部に送るつもりか」
「えっ……」
「ネザークロウの洞窟は魔物が棲み着いているし、瘴気がひどい。確かにかなり価値のある結晶が眠っているが、下手に近づけば命の危険がある。それを南部の奴らは手を汚さず、横取りを狙っているんだろう」

 やはり、一筋縄ではいかない場所か――。

 だが私はあきらめない。

「横取りだなんて、言葉が悪いですわ」

 イザークは南部に対して凝り固まった考えを持っている。頭を抱えたくなった。

 今日のところはこれ以上、なにを言っても理解してもらうのは難しい気がする。
 北部で育ってきた彼の見てきた景色もあることだろうし。一概に否定ばかりしてはいけない。

「わかりました。今日はもうお話ししてもお互いが理解できないと思いますので、止めましょう」

 いったん、ここで引くことにし、にっこりと微笑んで告げる。

「ですが南部の人間は決して北部を嫌ったり、バカにしたりなどしていないと、それだけは信じてくださいませ」

 一度言ったぐらいでは信用してもらうのは難しいだろう。
 ならば何度だって伝えるし、態度でも示そう。

 はっきり言い切るとイザークは少したじろいだのがわかった。

 なんだ、意外に私の話を聞いてくれる方かもしれないわね。
 ならばこれからに期待しよう。だって、私たちは夫婦になったのだから。

「それで、どうなさいますか?」

 私はベッド脇でたたずむイザークに声をかけた。

「どうって……?」

 眉間にしわを寄せて首を傾げた彼は、本気でわからないようだ。

「初夜ですわよ。どうします? 営みをなさいますか?」

 質問した瞬間、薄暗い部屋だったが、イザークの耳まで真っ赤になったことに気づいた。

「バッ……!! バカ野郎!! そんなはしたない言葉使うな!!」

 叫んだイザークはあきらかに動揺していた。