すると私をジッと見つめる、二つの瞳に気づく。
イザーク・カロン侯爵だ。
無表情でベッド脇に立ち、私を見下ろしている。
初夜で堂々と寝入ってしまうだなんて、恥ずかしい。
気まずさからそっと視線を逸らし、耳に髪をかけた。
イザーク・カロン侯爵は湯を浴びたのか、髪が少し濡れている。正装を脱ぎ捨てガウンを羽織っているが、たくましい体が際立つ。
なにか言って欲しいが、相手は動こうとしない。
ええい、こうなれば――。
「まず、ご挨拶をさせてください」
結婚までしておいて、挨拶もないだろうと思う。だが、この城に到着したのは昨夜遅く。加えて魔物が出没したとのことで、イザーク・カロン侯爵は不在だったのだ。帰宅した彼はとても疲れて見え、簡単な挨拶のみで終わった。
だから改めて彼と向かい合ったのは、式の時だ。
「私、南部から参りました、シャルロット・セバスティアですわ」
ベッドから下りて、淑女の礼を取る。
「……イザーク・カロンだ」
やがて低い声が聞こえたことで、ホッとした。
良かった、彼は私と話す気はあるということね。
「突然の結婚で驚いたと思いますが、よろしくお願いしますわ」
胸に手をあて、にっこりと微笑んだ。
まずは会話から始めよう。
「イザーク・カロン様は総指揮官とお聞きしました」
「……」
北部の山のふもとでは魔物が出没すると聞く。街のほうこそ被害は聞かないが、彼がまとめる騎士団が魔物を街に寄せ付けないようにしているのだ。
この北部の平和を守っているとも聞いていた。
それならば、私の力も役に立つはずだわ。
――私には大きな秘密がある。
今まで、これを知る者はごくわずかしかいなかったが、今日から彼も家族の一員だ。それならば、知っておく必要があると思えた。
唇をギュッと噛みしめ、ゆっくりと顔を上げた。
「実は私――」
「いや、いい。聞く必要はない」
勇気を出して告白をしようとしたところで、遮られた。
言葉を失い、目をパチパチと瞬かせた。
そしてさらに驚く発言をした。
「どうせ、あんたと俺は政略結婚。別に仲良くなる必要なんてない。――そうだろう?」
吐き捨てるように言った台詞を聞き、最初は呆気に取られた。
だが、次第に冷静になってくる。
なるほど。
私は政略結婚だからこそ、王命の意味を汲んで、南部と北部の架け橋となるような関係を築けたらいいと思っていた。それならば個人の感情を捨て、仲良くやっていければ一番良いと。
だが、目の前の私の夫となったイザーク・カロン侯爵は、私とは真逆の意見らしい。
――まあ、いろいろな考えがあるわよね。
いきなり結婚しろと言われて、納得していないのだろう。
彼の態度を見ていると、そう思えた。
「そうですか……」
ポツリとつぶやくと、部屋に沈黙が落ちた。
だが、相手がどう思っていようが、自分の考えは告げるべきだと判断した。
両手をギュッと握り、彼の目を真っすぐに見つめた。
「ですが、私の考えとは違います」
はっきりと言い放ったことで、彼が一瞬、たじろいだと感じた。
「私たち貴族は、庶民に比べ恵まれた生活を送っています」
綺麗なドレスで着飾り、労働の辛さも知らなければ、飢えることもない。
「日々恵まれているからこそ、政略結婚で誰かの駒になることも、貴族の義務です」
私ははっきりと自分の考えを述べる。
「私たちの婚姻は北部と南部の架け橋となるでしょう。お互いが足りないものを補える関係にだってなれます。北部の食糧が不作でしたら、南部から送りましょう。南部は製鉄技術が優れているので、加工した剣があれば、魔物との闘いだってグッと楽になると思うのです。そうすることで、豊かな生活に一歩、近づくと思えませんか? そしてそれは貴族だけではありません」
実際、私の育ったセバスティア侯爵家は富豪だった。国で三本の指に入る、と言われているほどの。
私は息をスッと吸い込み、お腹に力を入れた。
「このインペリア国に住む人々、すべてが豊かになれるのです。それこそがこの結婚、王命の意味です」
私の考えを聞き、彼はどう思うのだろうか。
イザーク・カロン侯爵は小さく口を開け、唖然としている。
まさか、私に反論されるとは思わなかったのだろうか。
イザーク・カロン侯爵だ。
無表情でベッド脇に立ち、私を見下ろしている。
初夜で堂々と寝入ってしまうだなんて、恥ずかしい。
気まずさからそっと視線を逸らし、耳に髪をかけた。
イザーク・カロン侯爵は湯を浴びたのか、髪が少し濡れている。正装を脱ぎ捨てガウンを羽織っているが、たくましい体が際立つ。
なにか言って欲しいが、相手は動こうとしない。
ええい、こうなれば――。
「まず、ご挨拶をさせてください」
結婚までしておいて、挨拶もないだろうと思う。だが、この城に到着したのは昨夜遅く。加えて魔物が出没したとのことで、イザーク・カロン侯爵は不在だったのだ。帰宅した彼はとても疲れて見え、簡単な挨拶のみで終わった。
だから改めて彼と向かい合ったのは、式の時だ。
「私、南部から参りました、シャルロット・セバスティアですわ」
ベッドから下りて、淑女の礼を取る。
「……イザーク・カロンだ」
やがて低い声が聞こえたことで、ホッとした。
良かった、彼は私と話す気はあるということね。
「突然の結婚で驚いたと思いますが、よろしくお願いしますわ」
胸に手をあて、にっこりと微笑んだ。
まずは会話から始めよう。
「イザーク・カロン様は総指揮官とお聞きしました」
「……」
北部の山のふもとでは魔物が出没すると聞く。街のほうこそ被害は聞かないが、彼がまとめる騎士団が魔物を街に寄せ付けないようにしているのだ。
この北部の平和を守っているとも聞いていた。
それならば、私の力も役に立つはずだわ。
――私には大きな秘密がある。
今まで、これを知る者はごくわずかしかいなかったが、今日から彼も家族の一員だ。それならば、知っておく必要があると思えた。
唇をギュッと噛みしめ、ゆっくりと顔を上げた。
「実は私――」
「いや、いい。聞く必要はない」
勇気を出して告白をしようとしたところで、遮られた。
言葉を失い、目をパチパチと瞬かせた。
そしてさらに驚く発言をした。
「どうせ、あんたと俺は政略結婚。別に仲良くなる必要なんてない。――そうだろう?」
吐き捨てるように言った台詞を聞き、最初は呆気に取られた。
だが、次第に冷静になってくる。
なるほど。
私は政略結婚だからこそ、王命の意味を汲んで、南部と北部の架け橋となるような関係を築けたらいいと思っていた。それならば個人の感情を捨て、仲良くやっていければ一番良いと。
だが、目の前の私の夫となったイザーク・カロン侯爵は、私とは真逆の意見らしい。
――まあ、いろいろな考えがあるわよね。
いきなり結婚しろと言われて、納得していないのだろう。
彼の態度を見ていると、そう思えた。
「そうですか……」
ポツリとつぶやくと、部屋に沈黙が落ちた。
だが、相手がどう思っていようが、自分の考えは告げるべきだと判断した。
両手をギュッと握り、彼の目を真っすぐに見つめた。
「ですが、私の考えとは違います」
はっきりと言い放ったことで、彼が一瞬、たじろいだと感じた。
「私たち貴族は、庶民に比べ恵まれた生活を送っています」
綺麗なドレスで着飾り、労働の辛さも知らなければ、飢えることもない。
「日々恵まれているからこそ、政略結婚で誰かの駒になることも、貴族の義務です」
私ははっきりと自分の考えを述べる。
「私たちの婚姻は北部と南部の架け橋となるでしょう。お互いが足りないものを補える関係にだってなれます。北部の食糧が不作でしたら、南部から送りましょう。南部は製鉄技術が優れているので、加工した剣があれば、魔物との闘いだってグッと楽になると思うのです。そうすることで、豊かな生活に一歩、近づくと思えませんか? そしてそれは貴族だけではありません」
実際、私の育ったセバスティア侯爵家は富豪だった。国で三本の指に入る、と言われているほどの。
私は息をスッと吸い込み、お腹に力を入れた。
「このインペリア国に住む人々、すべてが豊かになれるのです。それこそがこの結婚、王命の意味です」
私の考えを聞き、彼はどう思うのだろうか。
イザーク・カロン侯爵は小さく口を開け、唖然としている。
まさか、私に反論されるとは思わなかったのだろうか。

