だが、それは私も同じこと。
特に自分から話しかけようとはせず、注意深く様子を見守っていた。
「この結婚に対して、思うところがあるのかもしれないわね」
三か月前の王命により、急に決まった結婚。もしかしたら恋人がいたのかもしれない。
「だけど私たちは貴族。結婚は自身の感情よりも、周囲の利害関係などによって決められると、覚悟はしていたと思うわ」
今はあんなに仲良しな両親も政略結婚だったと聞くし。
「結婚したのだから、精いっぱい自分なりに努力するつもりよ」
そうよ、相手のことは何も知らないけれど、これから知っていけばいいだけのこと。
「そうですね、イザーク様も戸惑っているのかもしれませんね。シャルロット様があまりにもお綺麗で」
「まあ、ありがとう」
ドリーの言葉にクスリと笑う。
「そうですよ、セバスティア侯爵家の秘宝と呼ばれたお嬢さまじゃないですか。この流れるような蜂蜜色の髪に、新緑色の瞳。正直、北部に嫁ぐと聞いて、南部の男性は涙に暮れたと思いますよ」
「大げさなんだから」
私は声に出して笑う。やはりドリーを連れてきて正解だった。何気ない会話を楽しむことができるし、なにより心強い。
「ありがとう、ドリー。あなたがいてくれて良かったわ」
素直に礼を言うと、ドリーは照れたように頬を染めた。
「私の方こそ感謝いたしております。裏路地でさまよっていた私を引き取って側に置いてくださったのですから」
ドリーとは七歳の頃からの付き合いで、もう十二年になる。
「じゃあ、これからもよろしくね」
「はい、どこまでもお供します。シャルロット様が行くなら地獄までも!」
「そこはちょっと行きたくないかな! どうせなら二人で天国目指しましょうよ」
私とドリーは顔を見合わせて笑った。式と宴で緊張していたが、ここにきてようやく和らいだ。
浴槽に入っているローズの香油もまた、癒された要因の一つだった。
ゆっくりと瞼を閉じる。
これから初夜を迎える――。
不安がないわけじゃない。だが、結婚したのだから、それも務めだと自分に言い聞かせた。
湯あみを終え、薄手の夜着に袖を通す。
その上からガウンを羽織り、準備が整ったところで、扉がノックされた。
「部屋を移動になります」
「わかったわ」
私は案内役の女性の後ろをついていった。
やがて重厚な扉の前で彼女は立ち止まる。
「こちらになります」
深々と頭を下げると、私が入室するのを待っているのだろう。
静かに扉を開け、部屋に入った。
広い部屋の中央にはテーブルとソファが置かれている。壁に飾られた絵画に、パチパチと音を出しているのは暖炉だった。そして大きなベッドが視界に入る。人が五人は眠れそうだ。
ベッド脇のランプがほのかな灯りを放ち、部屋を優しく包んでいた。
イザーク・カロン侯爵の姿はまだ見えなかった。
少しホッとすると共にベッドに腰かけた。柔らかなベッドは座り心地が良かった。
私はこれからイザーク・カロン侯爵と、初夜を迎える。
顔を合わせたばかりなのに、もう夫婦になっているだなんて不思議ね。
でも、上手くやっていけるといいのだけど――。
私たちはお互いをなにも知らないのだから、まずは会話をしよう。
会話をするってとても大事よね。
それからどのぐらい時間が過ぎたのだろうか。まだイザーク・カロン侯爵の姿は見えない。
耳を澄ますと、広間のがやがやとした音が聞こえてくるので、まだ盛り上がっているのかもしれない。
私は少し横になることにした。
ポスンとベッドに寝そべると、その心地良さに自然と笑みがこぼれた。
でも、寝てはダメよ。
ちゃんと起きて、イザーク・カロン侯爵を出迎えなくては――。
頭ではそう思いつつも、閉じた瞼を再び開くのは、なかなか困難だった。
***
カタン、と小さく物音が聞こえた。私はピクリと眉を動かす。
えっ……。
私、寝てしまっていた?
私はパチリと瞼を開け、ベッドから即座に体を起こした。
特に自分から話しかけようとはせず、注意深く様子を見守っていた。
「この結婚に対して、思うところがあるのかもしれないわね」
三か月前の王命により、急に決まった結婚。もしかしたら恋人がいたのかもしれない。
「だけど私たちは貴族。結婚は自身の感情よりも、周囲の利害関係などによって決められると、覚悟はしていたと思うわ」
今はあんなに仲良しな両親も政略結婚だったと聞くし。
「結婚したのだから、精いっぱい自分なりに努力するつもりよ」
そうよ、相手のことは何も知らないけれど、これから知っていけばいいだけのこと。
「そうですね、イザーク様も戸惑っているのかもしれませんね。シャルロット様があまりにもお綺麗で」
「まあ、ありがとう」
ドリーの言葉にクスリと笑う。
「そうですよ、セバスティア侯爵家の秘宝と呼ばれたお嬢さまじゃないですか。この流れるような蜂蜜色の髪に、新緑色の瞳。正直、北部に嫁ぐと聞いて、南部の男性は涙に暮れたと思いますよ」
「大げさなんだから」
私は声に出して笑う。やはりドリーを連れてきて正解だった。何気ない会話を楽しむことができるし、なにより心強い。
「ありがとう、ドリー。あなたがいてくれて良かったわ」
素直に礼を言うと、ドリーは照れたように頬を染めた。
「私の方こそ感謝いたしております。裏路地でさまよっていた私を引き取って側に置いてくださったのですから」
ドリーとは七歳の頃からの付き合いで、もう十二年になる。
「じゃあ、これからもよろしくね」
「はい、どこまでもお供します。シャルロット様が行くなら地獄までも!」
「そこはちょっと行きたくないかな! どうせなら二人で天国目指しましょうよ」
私とドリーは顔を見合わせて笑った。式と宴で緊張していたが、ここにきてようやく和らいだ。
浴槽に入っているローズの香油もまた、癒された要因の一つだった。
ゆっくりと瞼を閉じる。
これから初夜を迎える――。
不安がないわけじゃない。だが、結婚したのだから、それも務めだと自分に言い聞かせた。
湯あみを終え、薄手の夜着に袖を通す。
その上からガウンを羽織り、準備が整ったところで、扉がノックされた。
「部屋を移動になります」
「わかったわ」
私は案内役の女性の後ろをついていった。
やがて重厚な扉の前で彼女は立ち止まる。
「こちらになります」
深々と頭を下げると、私が入室するのを待っているのだろう。
静かに扉を開け、部屋に入った。
広い部屋の中央にはテーブルとソファが置かれている。壁に飾られた絵画に、パチパチと音を出しているのは暖炉だった。そして大きなベッドが視界に入る。人が五人は眠れそうだ。
ベッド脇のランプがほのかな灯りを放ち、部屋を優しく包んでいた。
イザーク・カロン侯爵の姿はまだ見えなかった。
少しホッとすると共にベッドに腰かけた。柔らかなベッドは座り心地が良かった。
私はこれからイザーク・カロン侯爵と、初夜を迎える。
顔を合わせたばかりなのに、もう夫婦になっているだなんて不思議ね。
でも、上手くやっていけるといいのだけど――。
私たちはお互いをなにも知らないのだから、まずは会話をしよう。
会話をするってとても大事よね。
それからどのぐらい時間が過ぎたのだろうか。まだイザーク・カロン侯爵の姿は見えない。
耳を澄ますと、広間のがやがやとした音が聞こえてくるので、まだ盛り上がっているのかもしれない。
私は少し横になることにした。
ポスンとベッドに寝そべると、その心地良さに自然と笑みがこぼれた。
でも、寝てはダメよ。
ちゃんと起きて、イザーク・カロン侯爵を出迎えなくては――。
頭ではそう思いつつも、閉じた瞼を再び開くのは、なかなか困難だった。
***
カタン、と小さく物音が聞こえた。私はピクリと眉を動かす。
えっ……。
私、寝てしまっていた?
私はパチリと瞼を開け、ベッドから即座に体を起こした。

