この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

 視線を向けるとそこにはミーシャの他に、いつの間にか二人のメイドがいた。
 集まってチラチラとこちらを見つめ、嫌な視線を向けている。

「失礼だろう、貴様ら」

 ドリーはいち早く声を荒げた。

「おお、怖い。そのような乱暴な言葉遣い。南部では普通なのかしら」
「まあ、苦労知らずの南部ですからね」

 メイドたちは三人集まったことで、強気になっている。加えてイザークの不在に、昨夜の彼の態度を見て、察したのかもしれない。

 主人であるイザークと私の仲が冷え切っていると。

 だから、自分たちも雑に扱っていいと思ったのだろう。

「私たち、賭けをしていたのですわ」

 ミーシャが腕を組み、ズイッと前に出た。

「賭けとは?」

 気になって聞いてみた。ミーシャはビシッと指を突き付けた。

「お飾りの奥様が、いつ南部に逃げて帰るかと」

 ミーシャが鼻で笑うと、側にいたメイドも噴き出した。意地の悪い笑みを向けられる。

「…………やるか」

 ドリーが小さな低い声でボソッとつぶやき、一歩前に出た。先日、ドリーに口でやられたミーシャはビクッと肩を震わせた。

 その時私はドリーの腕をガシッとつかんだ。
 目を合わせ、首を横にふる。

「シャルロット様……」

 ダメよ、ここはまず我慢して欲しい。

 視線で訴えるとドリーは大きくため息をつく。

「……わかりました」

 すっごく渋々と、ちっとも納得のいっていない声を出す。

 ドリーが引いたことで、ミーシャはあからさまにホッとした顔を見せる。そしてますます調子に乗ったのか、饒舌
だ。

「ここでは、あなたを歓迎してる者などいないですわ。北部には北部のやり方があるのです。大人しく、南部に帰られたらどうですか」

 強気な態度を取るミーシャをジッと見つめる。二人のメイドもうなずき、ミーシャに同意している。

「だいたい、なにが目的で王命結婚なのか、意味がわからないですし」

 それはミーシャごときメイドが知るよしもない、大きな使命があるのだ。

 この結婚が決まった時、南部でも反対の声が上がった。特に家族は嘆いたが、結局は王命には逆らえない。それは反逆罪を意味するのだから。

 王命という力技を使ってでも結婚した、私がここにいる意味、考えたことはないのかしら?

 不意ににっこり微笑んだ。

「……そう、あなたはこの結婚に反対ということなのね」

 私は静かに椅子から立ち上がる。

「ええ、反対ですとも。イザーク様にはもっと相応しい方がいるはず。あんなに北部のことを考えている方は他にいない。もっと相応しい方と一緒になるべきだわ」

 ああ、この方はイザークのことが好きなのだわ。
 だからこそ、なおのこと私のことが許せないのだろう。

「そう、それでは、その考えを私がお伝えするわ。――インペリア国王に手紙を書いて」

 この結婚の真意は、王と私たち家族しか知らないこと。

「ミーシャ・ヘイロン。あなたを反逆罪としてインペリア国王へ報告いたします」
「なっ……」

 反逆罪と聞き、ミーシャの顔色が変わった。他の二人のメイドも動揺し、口を大きく開けた。

「だってそうでしょう? 王命に反対だと、堂々と口にするだなんて。私なら、そんなことはできないわ」

 そう、国王から直々に下された。
 それは有無を言わせない、いわば命令だった。
 絶対王者からの指示、逆らうことなど、できやしない。

「反逆罪は一族死刑と決まっているけれど、それも承知の上での発言なのよね」
「そ、そんな、ちょっと口を滑らせただけじゃない!! 誰も本気だと思わないわ」

 動揺するミーシャにスッと冷めた視線を向けた。

「いいえ。私が信じるわ。それだけのことをあなたは口にしたの」

 背筋を伸ばし、動揺するミーシャをジッと見つめた。

「インペリア国王はあなたと私、どちらの言い分を信じると思う?」

 目を細め、フッと微笑む。

 今さらながら自分のしでかしたことを後悔しても遅い。口から出た言葉は、もう戻らない。