この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

「……俺には頼まないくせに」
「はい?」
「――いや、なんでもない」

 ボソッと吐き出された言葉を聞きそびれてしまった。聞き返してみたが、彼は再び口を開く気はないらしい。

 沈黙が落ちた空間。先にいたたまれなくなった私が口を開いた。

「彼が忙しいようでしたら、結構です」

 ロゼールだって騎士団の一員であることから、魔物の討伐で忙しい時もあるだろう。私に付き添うより、大事な任務があるかもしれない。

「彼がダメでしたら、またドリーと二人で――」
「好きにするといい」

 あきらめかけた時、言葉を遮るように言われた。

「本当ですか?」

 表情がパアッと輝いた。これからやろうとしていることはロゼールがいた方が、絶対話が早く進む。ロゼールでなくても、ウォルクの街に詳しい人材がいれば助かる。

「ありがとうございます。しばらくロゼールをお借りしますね」

 騎士団を束ねるイザークから許可をもらったのなら、連れまわしても大丈夫だろう。

「なんだか、私専属の騎士みたいですね」

 クスリと笑うと、なぜかイザークはムッとしたような表情を見せた。

「あっ、でも本当に忙しい時は無理に私に付き添わなくても結構ですので」

 あらかじめ、できる範囲でいいと言った。
 そこでふと思い出した。

 そうだわ、聞いておかないと。

「私の持参金のことなのですが」

 お金の話になるとイザークは身構えた。

「もし必要な物があれば使っていただいて――」
「いや、それはあんたのものだ。俺に気を遣わずとも好きにすればいい」
「わかりました」

 南部から持ってきた食料も保管したまま、持参金もどうこうしようとは思わなさそうだ。
 どうしてそこまで頑なな態度を取るのか不思議にも思うが、今は好都合だ。

 あとから文句を言っても、知らないんだから。
 私はにっこりと微笑んだ。

 ***

 そして翌日も、早い時間にドリーに起こされた。

「シャルロット様、起きてくださいませ。朝食の時間に遅刻してしまいますわ」

 そうだ、北部の朝食は早い。
 その前に起きて支度を終わらせなければならない。
 半分寝ぼけた頭でベッドから起き上がった。

 冷たい水で顔を洗うと、シャキッと目が覚めた。そのまま着替えを終えて、ダイニングに向かう。

 ダイニングの扉前にいた執事長が私の姿を視界に入れた。

「おはようございます、奥様」
「おはよう」

 奥様なんて呼び方、いまだに慣れない。
 だって今まで奥様らしいことを一つもしていないのだから。

「奥様、本日イザーク様はもうお出になられました」
「えっ、そうなの?」

 こんなに早い時間にどこへ出かけたのだろう。

「深夜、魔物の咆哮が聞こえたとかで、そのまま暗いうちに向かいました」

 確かに、魔物相手では時間が決められたものではないだろう。
 それでも不規則な時間に心配になる。

 北部の安全を守るため、毎日気の抜けない日々を送っているのではないかしら?

 眉間に深く刻まれた皺はそのせいなの?

 ……いえ、あれは性格だわね。

「イザーク様は不在ですが、奥様だけでも先に召しあがってください。メイドに準備させますので」
「ありがとう」

 広いテーブルの、昨日も腰かけた場所に座る。

 執事長はそのまま、どこかへ行った。

 しばらくすると現れたのは皿を手にしたミーシャだった。彼女の出現に、背後に控えていたドリーの放つ空気がピリッとしたのを感じた。

 ミーシャはズカズカと近づいてくると、私の前にドンッと皿を置いた。反動で食材が皿から飛び出てしまうのではないかと、心配になった。

「どうぞ」

 ニコリともせず、荒々しい態度を見せた。
 運ばれてきた皿を見て、目を疑った。そこには黒ずんで固そうなパンが一つ、ちょこんと乗っているだけだった。

 え、これが朝食なの?

 驚きすぎて目が点になる。

 これが前菜でこれから料理が運ばれてくるのかしら……?

 黒ずんだパンを前にして目をパチパチと瞬かせていると、クスクスと笑う声が聞こえた。