そんな日々が数日続き、暇を持て余したある日の昼食後、ドリーに切り出した。
「ねえ、街に行ってみない?」
「街ですか!?」
唐突な申し出にドリーは驚いた声を出す。
「ええ。北部の街を見てみたいわ」
北部が城塞に囲まれているのは、魔物と雪から身を守るためだと聞く。
本来なら夫となったイザークから案内して欲しいと思うのだが、あの調子ではいつになるのかわからない。今のところ、ちっともその気はなさそうだ。それならば自分で行くしかあるまい。
「お願いよ。本格的に雪が降る前に、街の状態を見ておきたいの」
「それはまあ、そうですけど……」
「好きに過ごしていいと言われているし、言質はとってあるわ。だから行きましょうよ。それに私、冬用の服が欲しいわ。あとコートも」
南部ではあまり必要がないため、冬用のドレスなどはごくわずかしか持ってこなかったのだ。これから冬本番だというのなら、コートは絶対必需品だと思えた。
「そうですね、行ってみますか。イザーク・カロン侯爵の下で大人しく過ごしているのもしゃくですし」
「やったわ、さすがドリー、話がわかっている」
「私たちは案内がなくても、自由に動けるんだぞ、ってところを見せてやりましょうか」
「そうね、私たちで街を開拓しましょう」
ノリノリになってドリーと二人で準備をした。私の持っている中で一番厚手の、それでいて地味な服を選ぶ。
「シャルロット様、これを」
ドリーから手渡されたのはフード付きのケープだった。
「シャルロット様の髪色は目立ちますからね。一応、お忍びなので」
「ええ、わかったわ、ありがとう」
いつもよりずっとラフな格好に着替え、これから街へ行くのだと思うと心が躍った。
「あ、シャルロット様、一応お聞きしますが、護衛はどうします? 誰か連れて行きますか?」
「いいえ、必要ないわ。ドリーと私がいれば怖いものなしでしょ」
私は右手首にはめられたブレスレットをチラッとドリーに見せる。
「ええ、まあ、必要ないでしょうね」
ドリーは苦笑しつつも自分が頼りにされたと知り、どこか嬉しそうだ。
「では、行きましょうか」
「ええ」
ドリーと二人、連れ立って部屋から出る。
「問題はどうやって馬車を手配するかよね」
「そうですね、直接行ってみましょう」
ドリーと二人、並んで馬小屋を目指す。屋敷を出ると、馬小屋はすぐに見つかった。
馬番の少年が、いきなり姿を現した私たちを見つけ、なにごとかとすっ飛んできた。
「ど、どうなされました。こんなところまで」
「うふふ。ちょっとお散歩よ」
驚いて目を白黒させている馬番をよそに、馬小屋をのぞく。
中には立派な体躯の馬が並んでいる。その中でもひときわ大きい馬を見つける。
「すごい。あなた、とても素敵ね。たてがみも立派だわ」
言葉を理解しているのか、ブルルンと尻尾を揺らした。
「そちらはイザーク様の愛馬になります」
「まあ、どうりで」
毛づやもよく、健康そのもの。普段から、きちんと管理されているのだろう。
「ところで馬車を一台準備して欲しいのだけど」
「馬車ですか?」
「ええ。今すぐ街へ行きたいの」
「は、はい。わかりました。今すぐ準備いたしますので、西門でお待ちください」
馬番の少年は転がりそうな勢いでどこかへ走っていった。
「そんなに急がなくても大丈夫よ――!!」
「シャルロット様、もう聞こえていませんよ」
「あら」
ドリーと二人、顔を見合わせて微笑んだ。
次に西門に向かおうとしたが場所がわからず、二人で立ち止まっていた。ちょうど通りかかった庭師の男性に案内してもらい、無事に西門までたどり着いた。
「なるほど。馬車はここから出ているのね」
しばらく待っていると馬車が一台、こっちに向かってやってきた。
馬小屋の少年は急いで準備してくれたのだろう。汗だくになっていた。
「ありがとう。行ってくるわね」
馬車に乗り込もうとした時、少年は帽子を脱いで見守ってくれる。だが、なにかを言いたげに手をソワソワさせている。
「あっ、あの……護衛の姿が見えませんが……」
そうか、女性二人では心配になったのだろう。
「大丈夫。護衛はちゃんといるわ」
心配そうな表情を見せていた少年だが、少し和らいだ。
「私のメイドのドリーはね、すっごく強いの。なにがあっても守ってくれるから、大丈夫なの」
ドリーは腰に手をあて、満更でもなさそうだ。
「一つだけ教えて。北部の街の治安は悪いのかしら?」
「いえ、裏通りにさえ行かなければそう問題ないかと思います。夜はお勧めしませんが」
「そうなの。ありがとう」
馬小屋の少年はおずおずと切り出す。
「あの、この件、イザーク様は知っていらっしゃるのでしょうか?」
「あら、大丈夫よ」
まだ半信半疑な様子だったが、ようやくホッとしたようだ。
だって好きに過ごしていいと言われているのだからね。
「今日は様子を見に行くだけよ。すぐに帰ってくるから、そう心配しないで」
そこまで告げると馬車に乗り込んだ。
「ねえ、街に行ってみない?」
「街ですか!?」
唐突な申し出にドリーは驚いた声を出す。
「ええ。北部の街を見てみたいわ」
北部が城塞に囲まれているのは、魔物と雪から身を守るためだと聞く。
本来なら夫となったイザークから案内して欲しいと思うのだが、あの調子ではいつになるのかわからない。今のところ、ちっともその気はなさそうだ。それならば自分で行くしかあるまい。
「お願いよ。本格的に雪が降る前に、街の状態を見ておきたいの」
「それはまあ、そうですけど……」
「好きに過ごしていいと言われているし、言質はとってあるわ。だから行きましょうよ。それに私、冬用の服が欲しいわ。あとコートも」
南部ではあまり必要がないため、冬用のドレスなどはごくわずかしか持ってこなかったのだ。これから冬本番だというのなら、コートは絶対必需品だと思えた。
「そうですね、行ってみますか。イザーク・カロン侯爵の下で大人しく過ごしているのもしゃくですし」
「やったわ、さすがドリー、話がわかっている」
「私たちは案内がなくても、自由に動けるんだぞ、ってところを見せてやりましょうか」
「そうね、私たちで街を開拓しましょう」
ノリノリになってドリーと二人で準備をした。私の持っている中で一番厚手の、それでいて地味な服を選ぶ。
「シャルロット様、これを」
ドリーから手渡されたのはフード付きのケープだった。
「シャルロット様の髪色は目立ちますからね。一応、お忍びなので」
「ええ、わかったわ、ありがとう」
いつもよりずっとラフな格好に着替え、これから街へ行くのだと思うと心が躍った。
「あ、シャルロット様、一応お聞きしますが、護衛はどうします? 誰か連れて行きますか?」
「いいえ、必要ないわ。ドリーと私がいれば怖いものなしでしょ」
私は右手首にはめられたブレスレットをチラッとドリーに見せる。
「ええ、まあ、必要ないでしょうね」
ドリーは苦笑しつつも自分が頼りにされたと知り、どこか嬉しそうだ。
「では、行きましょうか」
「ええ」
ドリーと二人、連れ立って部屋から出る。
「問題はどうやって馬車を手配するかよね」
「そうですね、直接行ってみましょう」
ドリーと二人、並んで馬小屋を目指す。屋敷を出ると、馬小屋はすぐに見つかった。
馬番の少年が、いきなり姿を現した私たちを見つけ、なにごとかとすっ飛んできた。
「ど、どうなされました。こんなところまで」
「うふふ。ちょっとお散歩よ」
驚いて目を白黒させている馬番をよそに、馬小屋をのぞく。
中には立派な体躯の馬が並んでいる。その中でもひときわ大きい馬を見つける。
「すごい。あなた、とても素敵ね。たてがみも立派だわ」
言葉を理解しているのか、ブルルンと尻尾を揺らした。
「そちらはイザーク様の愛馬になります」
「まあ、どうりで」
毛づやもよく、健康そのもの。普段から、きちんと管理されているのだろう。
「ところで馬車を一台準備して欲しいのだけど」
「馬車ですか?」
「ええ。今すぐ街へ行きたいの」
「は、はい。わかりました。今すぐ準備いたしますので、西門でお待ちください」
馬番の少年は転がりそうな勢いでどこかへ走っていった。
「そんなに急がなくても大丈夫よ――!!」
「シャルロット様、もう聞こえていませんよ」
「あら」
ドリーと二人、顔を見合わせて微笑んだ。
次に西門に向かおうとしたが場所がわからず、二人で立ち止まっていた。ちょうど通りかかった庭師の男性に案内してもらい、無事に西門までたどり着いた。
「なるほど。馬車はここから出ているのね」
しばらく待っていると馬車が一台、こっちに向かってやってきた。
馬小屋の少年は急いで準備してくれたのだろう。汗だくになっていた。
「ありがとう。行ってくるわね」
馬車に乗り込もうとした時、少年は帽子を脱いで見守ってくれる。だが、なにかを言いたげに手をソワソワさせている。
「あっ、あの……護衛の姿が見えませんが……」
そうか、女性二人では心配になったのだろう。
「大丈夫。護衛はちゃんといるわ」
心配そうな表情を見せていた少年だが、少し和らいだ。
「私のメイドのドリーはね、すっごく強いの。なにがあっても守ってくれるから、大丈夫なの」
ドリーは腰に手をあて、満更でもなさそうだ。
「一つだけ教えて。北部の街の治安は悪いのかしら?」
「いえ、裏通りにさえ行かなければそう問題ないかと思います。夜はお勧めしませんが」
「そうなの。ありがとう」
馬小屋の少年はおずおずと切り出す。
「あの、この件、イザーク様は知っていらっしゃるのでしょうか?」
「あら、大丈夫よ」
まだ半信半疑な様子だったが、ようやくホッとしたようだ。
だって好きに過ごしていいと言われているのだからね。
「今日は様子を見に行くだけよ。すぐに帰ってくるから、そう心配しないで」
そこまで告げると馬車に乗り込んだ。

