この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

 階段を半分ほど下りたところで、玄関から入ってきたイザークたちと、ばったりと出くわした。騎士たちは、甲冑を着込んでいる。

 私が姿を現したことで驚いたのか、皆が目を見開いていた。動揺が広がる中、イザークがズイッと一歩前に出る。

「おかえりなさい」

 私はふわりと微笑んだ。

「そしてご苦労様でした。皆さん無事で良かったですわ」

 労いの言葉をかけるとイザークは瞬きをしたのち、フイッと顔を逸らす。

「……ああ」

 素っ気ない言葉だが、反応してくれたことでホッとした。さすがに目の前で無視されては悲しくなるからだ。

 その時、イザークの横から一歩前に出た人物がいた。

「はじめまして、奥様。自分はイザーク様の右腕を自負しているロゼール・タリアドと申します」

 挨拶をしてくれたのは、さきほど窓の外から手を振ってくれた長髪の彼だった。

「はじめまして、ロゼール。以後、よろしくお願いしますわ」

 にっこりと微笑むとロゼールは嬉しそうに頬を上げた。
 素直に感情を表に出すタイプで、人懐っこい。そんな印象を受けた。

「シャルロット様、本当に美しい。こんなに美しい方が君主の奥様で自分は幸せです。騎士として忠誠を誓います」

 腰を折り、深々と頭を下げるロゼールに声を出して笑う。

「まあ、ありがとう。とても頼もしいわ」
「はい。イザーク様の奥様は自分にとっても大切なお方です。なにかあれば使ってください」
「ええ、その時はお願いするわね」

 ロゼールは饒舌な男性らしく、ポンポンと口から言葉が出てくる。そう、誰かさんとはまるで正反対だわ。

 一歩下がった場所にいるイザークは眉間に皺を寄せ、私とロゼールのやり取りを見ている。

 私とロゼールが仲良くなるのが、嫌なのかしら。
 とても不機嫌そうだ。

「いや~カロン侯爵家が一気に華やかになりましたよ。ここ北部では奥様のような蜂蜜色の髪に新緑の瞳は珍しいものですから。妖精の出現かと思いましたよ」

 饒舌なロゼールに褒めちぎられて、口に手を当てて微笑む。

「本当に、この地に舞い降りた春の女神です。なあ、みんな、そう思うだろう?」

 ロゼールが同意を求めようとクルッと振り返ると、十人ほどいた騎士たちが一斉にうなずいた。

「皆さん、お口がお上手なのね」

 後方に控えている騎士たちの顔を見渡した。
 騎士なだけあって、たくましい体格の持ち主たちばかりだ。

「皆さんこそ、鍛えあげられた肉体で素晴らしいですわ。北部の安全は皆さんの手で守られているのでしょうね」

 ぐるりと顔を見渡して伝えれば、心なしか皆の頬が赤くなっていた。

「今後もどうかよろしくお願いしますわ」

 優しく声をかけたところで、ずいっと前に出た人物がいた。

 イザークだ。

「――なにか用か?」

 さきほどまでのほんわかとした空気は消え去り、不機嫌なオーラを漂わせている。

「お帰りになられたのが窓から見えましたので、お迎えにきただけですわ。いけませんでしたかしら?」

 小首を傾げるとイザークは唇の端を噛んだ。

「別に、見回りはいつものことだ。そんなに気を遣わなくてもいい」

 イザークは素っ気なく返答した。
 騎士たちは口を挟むことなく、事の成り行きを見守っている。

「はい、わかりました」

 努めて穏やかに微笑む。

「ですが昨日、イザーク様はおっしゃいました、好きに過ごせばいいと。だから出迎えにきたのですわ。私が出迎えたいと思ったので、行動に移したまでです」

 そうよ、私がやりたかったから、やっただけのこと。

「いけませんでしたか?」

 堂々と意見を言い、胸を張る。

 ロゼールを筆頭に騎士たちが目を見開き、口をあんぐりと開けて凝視している。

 驚いているのかもしれないわね、私が自分たちの主人であるイザークに意見したものだから。

 そして私は返答を待たずに続けた。

「朝食は間に合いませんでしたけど、昼食はぜひ、ご一緒したいですわ」

 さあ、どう出るかな?

 イザークを見つめ、にっこりと微笑んだ。