この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

 ソファに座り、まずは一息ついた。

 しかし、さっきのミーシャとかいうメイドが見せた態度で、わかってしまった。やはりここの人間は私を歓迎していないのだろう。

 ふてぶてしい態度で、私を敬う仕草の一つもなく、感じるのは敵意。

 もしかして、北部のみんながあんな態度なのかしら? それなら心してかからないとね。

「大丈夫ですか、シャルロット様」

 おずおずと私の顔をのぞき込んでくるドリー。面と向かって敵意をぶつけられたことは、そう多くはない。セバスティア侯爵家に生まれ、それだけ守られてきたのだと、今さらながら実感した。

「ええ、驚きはしたけれど、大丈夫よ」

 だが、これぐらいならまだ耐えられる。それに、なにもすぐさま両手を広げての大歓迎を期待していたわけじゃない。南部の人間を引き入れるということは、こんなことも想定済みだ。

 一日で仲良くなるのは厳しいと、実感している。

「あんなのに落ち込まないでくださいね。いざとなったら、私がどうにか対処しますので」

 ドリーが腕をグッと曲げてみせる。

 ドリーは小柄な体格の割に、体力がある。それもすごく、人並み以上に――。

 だからこそ、敵意を感じさせてはいけない。
 ドリーは私の敵とみなしたら、容赦しない性格だと知っているから。

「そうね、いざとなった時だけ、ドリーにお願いするわ」
「はい、お任せください。シャルロット様の為なら、誰が相手でも負けません。例えさっきのクソ……いや、ミーシャでもイザーク・カロン侯爵でも!!」
「頼もしいわね」

 私たちは顔を見合わせてクスリと笑う。

「そろそろ準備できた頃だと思いますので、朝食を取りに行ってきます」

 ミーシャは扉に手をかけると、急いで出て行った。

 ***

「お待たせしました、シャルロット様」

 カートを押して戻ってきたドリー。その声は心なしか暗かった。

「今、準備いたしますね」

 カチャカチャと食器を取り扱う音が部屋に響く。
 ドリーが用意してくれた食事の前に座ると、目をパチクリとさせた。

 まるで岩かと思えんばかりに、カチカチに固いパン。野菜のクズで作られたスープは冷え切っている。茹でただけの卵に、ベーコンの切れ端かと思える物体がペッと皿に乗っかっている。

 ……質素だわ。

 だが、口には出さなかった。

「いただくわね」

 不安そうに見守るドリーを前にニコリと微笑んだ。

 北部は食糧の自給率が低い。南部にいた時と同じ食材を期待するわけにはいかないとわかっている。だが、これが北部にとっては普通なのか。

 それとも――これも意地悪の一環なのかしら。南部の人間は認めないと、暗に伝えているのかもしれない。

「味は悪くないわね」

 歯が欠けそうなほど固いパンを何度も咀嚼して、やっとの思いで飲み込む。そして野菜クズのスープで流し込むが、味が薄い。

 せめて温かければ、もう少し味を感じられたかもしれない。

 質素なりに味わっていると、ドリーがワッと顔を伏せた。

「ひどすぎます!! 南部の厨房のネズミだって、もっとマシな食事ですわ」
「確かに南部のネズミは食がいいのか、丸々と太っていたわよね」

 モグモグと口を動かしながら、答えた。

「シャルロット様は悔しくないのですか? こんな扱いを受けて」
「そうねぇ……」

 私はぼんやりと顔を上げて考えた。

「ずっとこのままなら、確かに辛いかもしれないけど、まだ始まったばかりだし……ね」

 自分自身に言い聞かせる。

「もしかしたら来年も十年先も北部にいて、身も心も北部の人間になっているかもしれないし」

 この地に馴染み、骨を埋めるのだろうか。今は想像がつかないが、どんな未来になるかなんて、誰もわからないものだし。

「それとも来月あたりに、南部に帰っていることもないと言い切れないしね」
「そうしましょう!!」

 ドリーが乗り気になり、身を乗り出した。

「嫌だ、冗談よ」

 口に手を当てて、コロコロと笑う。カロン侯爵家とセバスティア侯爵家を繋ぐ架け橋。それも王命。そう簡単に破談にできるものではないと、重々覚悟してきたのだから。

 ドリーと話していると、なにやら窓の外が騒がしいことに気づく。

「なにごとでしょうか?」

 ドリーが窓を開けると冷たい風が入り込んできた。だがどこか気持ちよくも感じた。

 ガヤガヤと音のする窓辺にそっと近寄ると、外に見えたのはイザークたちだった。体躯の良い馬に乗っている。