黒鳥のオディール

(素敵な人。なんて名前かしら)

 思わず湧き上がる気持ちに、そばにいる、オニキスを力強く抱きしめてしまいます。
 初めて受ける感情に、思わず彼も「クゥン」と声を漏らします。

 静まり返る森。

 オディールは青年のことで頭がいっぱいです。
 木々や鳥に、青年ののことを問いかけます。

「ねえ、彼はなんて名前なの? 一体彼は何処からきたの?」

 問いかけは冷たい夜霧に吸い込まれ、森はただ、深く沈黙するばかりでした。

 オディールは先ほどまでいた青年の場所に降り立つと、、ひとしずくの涙が零れそうになったいました。

 彼女の足元、青年が踏みしめた土の跡には、月光を反射してキラリと光るものがありました。

 それは、彼のロイヤルブルーの上着からこぼれ落ちた、小さな銀のボタンです。

 オディールはそれを震える指で拾い上げると、誰もいない森の中で、自分でも気づかないほど美しい微笑みを浮かべ、大事に握りしめるのでした。

 冷たい銀は、彼女の温もりで少しずつ温かいもに変ります。

「……いつか、これを返しに行ってもいいかしら」

  独り言が霧に溶けたその時、背後の空気が、凍りつくような威圧感と共に重く沈みます。

「……こんな所で、何をしている。オディール」