黒鳥のオディール

「さようなら、私の光(ジーク)」

 次の瞬間、彼女は水面を、大地を裂くような力強さで蹴り、跳ねました。

 それは本物の王女には決して真似できぬ、激しく、荒々しく、そしてこの世の何よりも気高い「影」の舞。

 彼女は回り続けます。一回、二回……。自分の体が影に溶けて消えてしまう前に、最高の自分を彼の記憶に焼き付けるように。

 周り続ける彼女からは、黒鳥の羽が、数枚抜け落ちています。

 三十二回。回り終えた彼女の足元には、銀色の月明かりが波紋のように広がっていたのでした。

 姿は黒鳥となり、ジークを一眼見ると、蒼い瞳を伏せてしまいます。

 哀れなその姿に、オデットや白鳥から姿が戻った彼女達も、息を止め見ます。
 ベンノとオニキスも、なにも言えないと見つめます。

 ただ一人、ジークにはその姿が、誰よりも何よりも光り輝く白鳥の姿に見えたのでした。

 黒鳥のオディールは喉を震わせ「クェー」と天届く声で泣きました。

 翼を大きく翼を広げ、銀色の月へ向かって飛び立ちます。

 夜空を征くその漆黒の翼は、地上のどんな光よりも、美しく、眩く輝いていたのでした。
 
 終わり。