黒鳥のオディール

 救いたいと願う本物の光(オデット)と、救いたいと願ってしまった愛しき影(オディール)。

 湖面に浮かぶ数多の白鳥たちの悲しい瞳が、彼の心を逃げ場のない鉄の鎖で締め付けていたのです。

 オディールは足元の銀のボタンを拾うと、微笑み。困惑するジークにお願いをしていました。

「私は元々作られた人物。ただ最後に私という一人の女性がいたことを、その目に焼き付けてはくれないでしょうか」

 そう語ると、オディールは大事そうに銀のボタンを握りしめ、湖に足を入れ歩き始めました。

 月明かりが彼女を舞台の主役として照らし出すと、湖畔に漂う禍々しい呪いの霧が黒い帯となり、すべてが彼女の細い体へと吸い込まれていきます。

 呪いと引き換えに、膝まで水に浸かる足元は水面に浮かび上がると、代わりに、オデットの足元が湖に浸かり、他の白鳥も暖かな光へと輝き、人間の姿に戻っていくのでした。

 蒼く澄み渡る湖上の舞台の上では、オディールは静かにその身を静止させ、ジークへと唇を動かしたのでした。