黒鳥のオディール

 しかし、その時。魔王の鋭い眼光は、ジークの懐からこぼれ落ちた「小さな銀の光」を捉えて静止させます。

(このボタン……。なぜ、これを。オディールが大切に隠し持っていたはずのものを、なぜ、今さら人間が握りしめているのだ)

 ロートバルトの眉が、不快そうに、あるいは不可解そうに歪みました。

 人形として作ったはずの娘と、獲物であるはずの王子。
 
 その二人の間に、自分の理解の及ばない「繋がり」が存在することに、彼は初めて戸惑いを感じたのです。

『ジークが危ない』と、ベンノは苦し紛れに、舞踏会会場から持って来た、銀のお盆を投げつけました。

 しかし、それを難なく躱(かわ)すと、後ろに聳える大木に当たり、無惨にも、その場に揺れ落ちていました。

 落ちた銀盤は、揺れながらも月の光を反射させると、眩しくも鋭い光が、ロートバルトの視界を遮ります。

 ジークは、その隙を見逃さず、ロートバルトの胸を、一点の迷いもなく貫きました。

 苦しみ悶えるロートバルト。剣の刺さった胸からは、炎が立ちこみます。

 その炎は全身を包むと、悲痛な叫び声をあげ、灰になって消えていきました。

 魔王は絶叫と共に灰へと還り、静寂が戻りました。