黒鳥のオディール

 自らの正体という名の暗い闇を、そして愛してしまった人への罪悪感を切り裂くように。

 彼女は祈りを捧げるかのように、渾身の三十二回転ものフェッテを回り続けます。

 回るたびに、銀のボタンを握りしめた掌の熱が、彼女の胸を焦がして行きます。

 ジークはその圧倒的な美しさに、ただただ心を奪われていました。
 その瞳に映る彼女の舞は、この世の何よりも気高く、儚い光に満ちていたのです。

「……この人こそが、私の運命だ」

 それが偽りの幕開けであるとも知らずに、王子は深い確信とともに、その影を真実の光として心に刻みつけるのでした。

 息を乱し、見つめ合う二人。会場からは自然と万雷の拍手が湧き上がりました。
 ジークは息を整えると、その場で片膝をつき、オディールへ心からの愛を捧げます。

「オデット。君を愛している。生涯、君だけを愛すると誓おう」

 優しい眼差しで見つめるジーク。

 しかし、期待に胸を膨らませて返事を待つ彼の前に、彼女の言葉が紡がれることはありませんでした。

 澄み切った蒼い瞳の奥に、言葉にならないほどの悲しみが溢れていることに、ジークは気づきます。

「……君は……」

 ジークが戸惑いの声を漏らした、その瞬間。 数えきれないほどの蝋燭の灯火が一斉に吹き消され、世界は深い闇へと沈みました。