黒鳥のオディール

「ふっふっふっふっ。なんと滑稽な。オデットの呪いを解こうとする者が現れるとは」

 思わずオディールは扉を開く手を止め、息をひそめてしまいます。

「私のかけた呪いを解くための言葉。『真実の愛』は一度きり、その手の内を、まさか本人の影から告げられるとは、まさに愉快。最も残酷に邪魔をすることができる」

 オディールはその『影』という言葉に、耳を傾けます。

「オディールはオデットの影から切り出し、命を吹き込んだ存在。まさか自身の呪いを解くことを、影である偽物に邪魔されるとは思うまい。正に愉快よ。はっはっはっ」

 オデットはその言葉を聞き、自身がどのように生まれ存在しているのか知るのでした。

 部屋から漏れ聞こえる、不気味な笑い声を背に、オディールは自身の部屋に向かいます。

(私は、魔王の娘ですらなかった。何を感じ、何の為に生まれて来たのだろう)

 寄り添うオニキスの黒い毛並みに指を沈め、彼女は己という存在の輪郭が、夜の闇に溶けて消えてしまうような恐怖に、震え続けるのでした。