黒鳥のオディール

「どうしたのだ、我が娘オディールよ」

 普段なら決して見せることのない悲しみを、今のオディールは話さずにはいられませんでした。

「私……人間の青年に恋をしてしまったみたいです」

 項垂(うなだ)れるオディールとは裏腹に、魔王は感心したように相槌を打ちます。

「ほう。それは一体、どのような青年だね?」

「おそらく貴族の方だと思うのですが……このボタンを落としていかれました」

 ロートバルトは差し出された銀のボタンを受け取ると、そこに刻まれた紋章をじっと見つめ、深く思考を巡らせました。

(この紋章は、間違いなくフリート家のもの……)

「その青年とは、どこで会ったのだ?」

「はい、湖の近くです。そこには、白鳥の姿をした女性もいて……。あの方が彼女を何かに誘っているようでした」

 ロートバルトの口元が、醜くニヤリと吊り上がります。

(フリート家には、確か二十歳になる世継ぎがいたはず。あそこは代々、盛大な舞踏会を開き、そこで妃を選ぶのが習わしだ……)

 ロートバルトは、慈悲深い父親を演じるかのように、オディールの肩にそっと手を添えました。