黒鳥のオディール

 ーー翌日。ジークは再び、一人で森の奥へと足を踏み入れました。

 昨夜の記憶の糸を手繰り寄せるように、木々の間を縫って歩みを進めます。
 ですが、銀のボタンは一向に姿を現しません。

 森の沈黙に急かされるように歩き続けた彼は、気づけば昨日と同じ、鏡のように澄んだ湖のほとりに立ち尽くしていました。

(やはり、見つからないか。もう一度、来た道を引き返すべきか)

 諦めかけたその時、地面に残る自分とベンノの足跡が目に留まりました。
 昨日の騒がしくも楽しかった時間の欠片を見つけ、彼の口元にわずかな笑みが浮かびました。

 小さな安らぎが心を前向きにさせ、再び探しに戻ろうと足を向けた、その時でした。
 鏡のような湖面に、一羽の白鳥が波紋ひとつ立てず、音もなく浮かんでいます。

 その白鳥は、あまりに澄んだ、そして射抜くような眼差しでジークを見つめていました。
 その孤独を湛えた悲しげな佇まいに、彼の心は疼くように締め付けられるのです。

(なんて、美しい……。白鳥の瞳が、これほど深く、蒼く輝くことがあるのだろうか)

 ジークは吸い寄せられるように、思わず声をかけていました。

「僕は君を傷つけない。どうか、もっと近くで、その美しい瞳を見せてくれないか」