夕食を終えたあと。
食器を片付けながら、遥希が振り返る。
「めいー。風呂、先入っといで」
「うん」
そう返事をしたものの、芽依子はソファからなかなか立ち上がれなかった。
今日一日で起きたことが多すぎて、頭がパンクしている。
遥希と再会して、助けられて、同居することになって。
そして――
(はる兄が、妹として見てないって言った)
思い出した瞬間、胸の奥も頬も熱くなる。
その時だった。
「めい」
不意に呼ばれて顔を上げる。
遥希はいつの間にか、すぐ近くに立っていた。
「約束、覚えてる?」
「……うん」
かすれた声で返すと、遥希の目がゆっくり甘さをのせて細くなる。
「ええ子や」
次の瞬間、手首を引かれて、体が引き寄せられた。
胸と胸が触れるほど、お互いの呼吸がゆっくり混ざる。
(……顔、見れない)
すると察知したように遥希の指が、顎にかかる。
逃がさないように、でも乱暴じゃない力で。
「こっち見て」
言われなくても、逸らせない。
もうとっくに視線を捕まえられてる。
「……怖い?」
「……ちがう」
震えながらも、首を横に振る。
その答えに、遥希がわずかに息を吐いた。
「そっか」
そう言ったあと、
――ゆっくり、顔が近づく。
逃げようと思えば逃げられる距離なのに、動けない。
(されるの?……)
唇が、触れた――気がした。
一瞬すぎて、空気を挟んだだけかもしれない。
「……っ」
思わず息を呑む。
その反応を楽しむように、遥希の唇がわずかに動いた。
触れてるか、触れてないか。
曖昧で、不確かで。
「めい」
呼ばれて顔を上げる。 遥希は困ったように笑った。
「そんな顔されたら……我慢できひんやろ」
吐息がそのまま唇にかかる。
(無理……これ以上は……)
逃げたいのに、
離れたくない。
矛盾した感情に縛られていると――
「……やめとく」
ふっと、距離が離れた。
一気に空気が流れ込んでくる。
「え……?」
思わず声が漏れて、自分でも驚く。
遥希は少しだけ笑っていた。
でもその目は、何かを堪えているような切なさがあって。
「今したら、終わりや」
「……終わり?」
「めい、逃げるやろ」
図星すぎて、言葉が出ない。
「めいとまた会えたんやから、待てるで」
そう言って、今度はちゃんと、軽くだけど額に触れる。
「ちゃんと終わらせてから、俺んとこおいで」
ゆっくりはっきりとした口調は、まるで幼い子に言い聞かせるみたいだった。
「その時は――」
遥希の指が、そっと芽依子の唇をなぞる。
「ちゃんと逃がさん」
息がかかる距離で、最後に囁かれる。
「めいが自分から来てくれるまで待ったる」
「……っ」
完全に宣言だった。
逃げ道を残してるようで、一番逃げられないやつ。
「でも覚悟だけはしとき」
遥希は困ったように笑った。
「大人になっためいに、もう一回会いたかってん」
それだけ言うと、まるで何もなかったみたいに、あっさり離れた。
「ほら、はよ入っといで」
いつものはる兄が、そこにいた。
でも――
(無理……こんなの普通に戻れるわけない……)
(それでも、離れたくないなんて……おかしい)
唇に残った熱が、消えない。
触れてないはずなのに。
触れられたみたいに。
――もう、逃げられない。
それなのに。
不思議と、逃げたいとは思わなかった。
食器を片付けながら、遥希が振り返る。
「めいー。風呂、先入っといで」
「うん」
そう返事をしたものの、芽依子はソファからなかなか立ち上がれなかった。
今日一日で起きたことが多すぎて、頭がパンクしている。
遥希と再会して、助けられて、同居することになって。
そして――
(はる兄が、妹として見てないって言った)
思い出した瞬間、胸の奥も頬も熱くなる。
その時だった。
「めい」
不意に呼ばれて顔を上げる。
遥希はいつの間にか、すぐ近くに立っていた。
「約束、覚えてる?」
「……うん」
かすれた声で返すと、遥希の目がゆっくり甘さをのせて細くなる。
「ええ子や」
次の瞬間、手首を引かれて、体が引き寄せられた。
胸と胸が触れるほど、お互いの呼吸がゆっくり混ざる。
(……顔、見れない)
すると察知したように遥希の指が、顎にかかる。
逃がさないように、でも乱暴じゃない力で。
「こっち見て」
言われなくても、逸らせない。
もうとっくに視線を捕まえられてる。
「……怖い?」
「……ちがう」
震えながらも、首を横に振る。
その答えに、遥希がわずかに息を吐いた。
「そっか」
そう言ったあと、
――ゆっくり、顔が近づく。
逃げようと思えば逃げられる距離なのに、動けない。
(されるの?……)
唇が、触れた――気がした。
一瞬すぎて、空気を挟んだだけかもしれない。
「……っ」
思わず息を呑む。
その反応を楽しむように、遥希の唇がわずかに動いた。
触れてるか、触れてないか。
曖昧で、不確かで。
「めい」
呼ばれて顔を上げる。 遥希は困ったように笑った。
「そんな顔されたら……我慢できひんやろ」
吐息がそのまま唇にかかる。
(無理……これ以上は……)
逃げたいのに、
離れたくない。
矛盾した感情に縛られていると――
「……やめとく」
ふっと、距離が離れた。
一気に空気が流れ込んでくる。
「え……?」
思わず声が漏れて、自分でも驚く。
遥希は少しだけ笑っていた。
でもその目は、何かを堪えているような切なさがあって。
「今したら、終わりや」
「……終わり?」
「めい、逃げるやろ」
図星すぎて、言葉が出ない。
「めいとまた会えたんやから、待てるで」
そう言って、今度はちゃんと、軽くだけど額に触れる。
「ちゃんと終わらせてから、俺んとこおいで」
ゆっくりはっきりとした口調は、まるで幼い子に言い聞かせるみたいだった。
「その時は――」
遥希の指が、そっと芽依子の唇をなぞる。
「ちゃんと逃がさん」
息がかかる距離で、最後に囁かれる。
「めいが自分から来てくれるまで待ったる」
「……っ」
完全に宣言だった。
逃げ道を残してるようで、一番逃げられないやつ。
「でも覚悟だけはしとき」
遥希は困ったように笑った。
「大人になっためいに、もう一回会いたかってん」
それだけ言うと、まるで何もなかったみたいに、あっさり離れた。
「ほら、はよ入っといで」
いつものはる兄が、そこにいた。
でも――
(無理……こんなの普通に戻れるわけない……)
(それでも、離れたくないなんて……おかしい)
唇に残った熱が、消えない。
触れてないはずなのに。
触れられたみたいに。
――もう、逃げられない。
それなのに。
不思議と、逃げたいとは思わなかった。



