夕食を終えたあと、二人で軽く買い出しに出る。
「近くのコンビニだけな」
そう言って歩き出すと夜風が少し冷たくて、芽依子は肩をすくめる。
すると、何も言わずに上着をかけられた。
「着とき」
「……ありがとう」
そのまま、自然に手を取られる。
「ちょ、手……」
「迷子防止」
「それ、子どものときでしょっ?」
軽く笑いながら言うけれど、指はしっかり絡められている。
コンビニに入った瞬間、江崎に似た後ろ姿の男性を見つけた。
(……よかった、違う人)
無意識に体が強張ると、遥希がぐっと引き寄せた。
「あいつのこと考えてんの、腹立つわ」
芽依子だけに聞こえる声音で囁かれる。
「俺のことだけ、考えとけ。そしたら怖ないやろ」
(……それって)
独占欲そのままの言葉に、言い返せない。
手早く買い物を済ませ、店を出る。
遥希は黙ったまま芽依子の手を繋ぎ、足早にマンションに帰ってきた。
玄関のドアが閉まる。
鍵のかかる音が、やけに大きく響いた。
その瞬間、空気が変わる。
「めい」
不機嫌な音をのせた声に、反射的に振り向く。
詰められた距離に一歩下がろうとした背中が、ドアに当たって止まる。
「約束、覚えてる?」
「……うん」
かすれた声で返すと、遥希の目がゆっくり甘さをのせて細くなる。
「ええ子」
次の瞬間、手首を引かれて、体が引き寄せられた。
胸と胸が触れるほど、お互いの呼吸がゆっくり混ざる。
(……顔、見れない)
すると察知したように遥希の指が、顎にかかる。
逃がさないように、でも乱暴じゃない力で。
「こっち見て」
言われなくても、逸らせない。
もうとっくに視線を捕まえられてる。
「……怖い?」
「……ちがう」
震えながらも、首を横に振る。
その答えに、遥希がわずかに息を吐いた。
「そっか」
そう言ったあと、
――ゆっくり、顔が近づく。
逃げようと思えば逃げられる距離なのに、動けない。
(されるの?……)
唇が、触れた――気がした。
一瞬すぎて、空気を挟んだだけかもしれない。
「……っ」
思わず息を呑む。
その反応を楽しむように、遥希の唇がわずかに動いた。
触れてるか、触れてないか。
曖昧で、不確かで。
「めい」
初めて聞く妖艶な声に、自分の名前なのに背筋が震える。
「そんな顔されたら……我慢できひんやろ」
吐息がそのまま唇にかかる。
(無理……これ以上は……)
逃げたいのに、
離れたくない。
矛盾した感情に縛られていると――
「……やめとく」
ふっと、距離が離れた。
一気に空気が流れ込んでくる。
「え……?」
思わず声が漏れて、自分でも驚く。
遥希は少しだけ笑っていた。
でもその目は、もう欲を隠してない。
「今したら、終わりや」
「……終わり?」
「めい、逃げるやろ」
図星すぎて、言葉が出ない。
「せっかく、ここまで来たのに」
そう言って、今度はちゃんと、軽くだけど額に触れる。
さっきより優しいのに、さっきよりずっと色っぽい。
「さっさと終わらせて、ちゃんと来い」
ゆっくりはっきりとした口調は、まるで幼い子に言い聞かせるみたいだった。
「自分から欲しいって言えるようになってから」
息がかかる距離で、最後に囁かれる。
「その時は、ちゃんとキスしたる」
「逃げられると思わんほうがええで」
完全に宣言だった。
逃げ道を残してるようで、一番逃げられないやつ。
「ずっと待ってたんやから……覚悟しとき」
それだけ言うと、まるで何もなかったみたいに、あっさり離れた。
「風呂、先入っといで」
いつものはる兄が、そこにいた。
でも――
(無理……こんなんで普通に戻れるわけない……)
(それでも、離れたくないなんて……おかしい)
唇に残った熱が、消えない。
触れてないはずなのに。
触れられたみたいに。
――もう、逃げられない。
「近くのコンビニだけな」
そう言って歩き出すと夜風が少し冷たくて、芽依子は肩をすくめる。
すると、何も言わずに上着をかけられた。
「着とき」
「……ありがとう」
そのまま、自然に手を取られる。
「ちょ、手……」
「迷子防止」
「それ、子どものときでしょっ?」
軽く笑いながら言うけれど、指はしっかり絡められている。
コンビニに入った瞬間、江崎に似た後ろ姿の男性を見つけた。
(……よかった、違う人)
無意識に体が強張ると、遥希がぐっと引き寄せた。
「あいつのこと考えてんの、腹立つわ」
芽依子だけに聞こえる声音で囁かれる。
「俺のことだけ、考えとけ。そしたら怖ないやろ」
(……それって)
独占欲そのままの言葉に、言い返せない。
手早く買い物を済ませ、店を出る。
遥希は黙ったまま芽依子の手を繋ぎ、足早にマンションに帰ってきた。
玄関のドアが閉まる。
鍵のかかる音が、やけに大きく響いた。
その瞬間、空気が変わる。
「めい」
不機嫌な音をのせた声に、反射的に振り向く。
詰められた距離に一歩下がろうとした背中が、ドアに当たって止まる。
「約束、覚えてる?」
「……うん」
かすれた声で返すと、遥希の目がゆっくり甘さをのせて細くなる。
「ええ子」
次の瞬間、手首を引かれて、体が引き寄せられた。
胸と胸が触れるほど、お互いの呼吸がゆっくり混ざる。
(……顔、見れない)
すると察知したように遥希の指が、顎にかかる。
逃がさないように、でも乱暴じゃない力で。
「こっち見て」
言われなくても、逸らせない。
もうとっくに視線を捕まえられてる。
「……怖い?」
「……ちがう」
震えながらも、首を横に振る。
その答えに、遥希がわずかに息を吐いた。
「そっか」
そう言ったあと、
――ゆっくり、顔が近づく。
逃げようと思えば逃げられる距離なのに、動けない。
(されるの?……)
唇が、触れた――気がした。
一瞬すぎて、空気を挟んだだけかもしれない。
「……っ」
思わず息を呑む。
その反応を楽しむように、遥希の唇がわずかに動いた。
触れてるか、触れてないか。
曖昧で、不確かで。
「めい」
初めて聞く妖艶な声に、自分の名前なのに背筋が震える。
「そんな顔されたら……我慢できひんやろ」
吐息がそのまま唇にかかる。
(無理……これ以上は……)
逃げたいのに、
離れたくない。
矛盾した感情に縛られていると――
「……やめとく」
ふっと、距離が離れた。
一気に空気が流れ込んでくる。
「え……?」
思わず声が漏れて、自分でも驚く。
遥希は少しだけ笑っていた。
でもその目は、もう欲を隠してない。
「今したら、終わりや」
「……終わり?」
「めい、逃げるやろ」
図星すぎて、言葉が出ない。
「せっかく、ここまで来たのに」
そう言って、今度はちゃんと、軽くだけど額に触れる。
さっきより優しいのに、さっきよりずっと色っぽい。
「さっさと終わらせて、ちゃんと来い」
ゆっくりはっきりとした口調は、まるで幼い子に言い聞かせるみたいだった。
「自分から欲しいって言えるようになってから」
息がかかる距離で、最後に囁かれる。
「その時は、ちゃんとキスしたる」
「逃げられると思わんほうがええで」
完全に宣言だった。
逃げ道を残してるようで、一番逃げられないやつ。
「ずっと待ってたんやから……覚悟しとき」
それだけ言うと、まるで何もなかったみたいに、あっさり離れた。
「風呂、先入っといで」
いつものはる兄が、そこにいた。
でも――
(無理……こんなんで普通に戻れるわけない……)
(それでも、離れたくないなんて……おかしい)
唇に残った熱が、消えない。
触れてないはずなのに。
触れられたみたいに。
――もう、逃げられない。



