夜間の救急診療なので、簡単な処置を終え、詳しい検査は、明日改めてになった。
家の車に乗り込み、自販機で買った緑茶を飲む。
ほどよい苦味と冷たさが、疲れた体と心を癒してくれる。
芽依子はやっと、落ち着いて息を吐くことが出来た。
「お母さん、ありがとね……」
運転している芙美も、大きく息を吐く。
「救急車で運ばれたって聞いたときは、心臓止まるかと思ったんだからね」
「心配かけてごめん……」
「ほんとよっ!はる君がいてくれて助かったわ」
「そっか、はる君が……え?はる君って、……はる兄?」
夢だと思い込んでいたその名前に、芽依子の胸がさざ波立つ。
「そうよ。あんたも、ちゃんとお礼言いなさいね、明日」
「うん……ん?明日?」
「明日はる君が病院に連れてってくれるからね」
「ウソでしょ……」
――心の準備が出来ていない。
芽依子は、さきほど出会った救急隊員の姿を思い出す。
ヘルメットにマスクをしているから誰が誰だか……。
(うそ……わかるよ、はる兄のこと)
窓に映る姿に、12歳の芽衣子と遥希が重なる。
会えなかったわけじゃない。
会わなかっただけ。
幼な心ゆえの嫉妬で、引っ込みがつかなくて、今も拗らせたまま。
(……あたしだって、本当は、はる兄がいい)
車窓に流れる夜の街の灯りは、いつもと変わらず悠々と煌めいている。
ただ、ほんの少しだけ、芽依子に再会の勇気を与えているように見えた。
***
朝日はすでに、南の空に高く昇りはじめていた。
部屋中に鳴り響くスマホのアラームは、すでに二回目。
でも、まだ寝ていたくて、止めたスマホを枕の下に潜らせた。
「めーいっ……相変わらず、朝弱いなぁ」
「……違うよー……はる兄が早いだけでしょー……」
自然に会話したものの、驚いた芽依子が飛び起きる。
同時に、背中に痛みが走った。
「っっ!…………」
「こらっ、急に起き上がったらあかん」
駆け寄った遥希が、仰け反った体を抱きとめた。
聞き馴染みの関西弁に、シンプルだけど安心する石鹸の香り。
見なくても誰かなんて、一瞬で分かる。
「呼んでも起きひんから、見にきたんやで」
「うそ……ごめん」
「ええよ、いつものことやし。……下で待ってるな」
支えてくれた逞しい腕がほどかれ、少し残念に思ってしまう。
遥希はふわりと笑って、頭に手を優しく置いた。
そのまま、芽依子の髪を少しだけ弄っている。
「な……なに?」
そう言ったのに、目の前の遥希から目を離せないでいる。
黒目の大きな瞳に長い睫、整った鼻筋。
少しだけ短くなった髪は、遥希の精悍さをより際立たせる。
あの頃より、大人の男性の色気を纏っている。
暫く見ていたが、先に視線を外したのは遥希だった。
「支度しぃや。時間なくなるで」
今度こそ、頭を軽く撫でて、立ち上がる。
ドアから出ていく直前に、芽依子に向かって含んだ笑顔を投げる。
「あと、寝顔、ご馳走さん」
一瞬、呆ける芽依子。
じわじわと意味を理解する頃には、ドアは閉まっていた。
「はる兄のバカっ……変態っ!」
家の車に乗り込み、自販機で買った緑茶を飲む。
ほどよい苦味と冷たさが、疲れた体と心を癒してくれる。
芽依子はやっと、落ち着いて息を吐くことが出来た。
「お母さん、ありがとね……」
運転している芙美も、大きく息を吐く。
「救急車で運ばれたって聞いたときは、心臓止まるかと思ったんだからね」
「心配かけてごめん……」
「ほんとよっ!はる君がいてくれて助かったわ」
「そっか、はる君が……え?はる君って、……はる兄?」
夢だと思い込んでいたその名前に、芽依子の胸がさざ波立つ。
「そうよ。あんたも、ちゃんとお礼言いなさいね、明日」
「うん……ん?明日?」
「明日はる君が病院に連れてってくれるからね」
「ウソでしょ……」
――心の準備が出来ていない。
芽依子は、さきほど出会った救急隊員の姿を思い出す。
ヘルメットにマスクをしているから誰が誰だか……。
(うそ……わかるよ、はる兄のこと)
窓に映る姿に、12歳の芽衣子と遥希が重なる。
会えなかったわけじゃない。
会わなかっただけ。
幼な心ゆえの嫉妬で、引っ込みがつかなくて、今も拗らせたまま。
(……あたしだって、本当は、はる兄がいい)
車窓に流れる夜の街の灯りは、いつもと変わらず悠々と煌めいている。
ただ、ほんの少しだけ、芽依子に再会の勇気を与えているように見えた。
***
朝日はすでに、南の空に高く昇りはじめていた。
部屋中に鳴り響くスマホのアラームは、すでに二回目。
でも、まだ寝ていたくて、止めたスマホを枕の下に潜らせた。
「めーいっ……相変わらず、朝弱いなぁ」
「……違うよー……はる兄が早いだけでしょー……」
自然に会話したものの、驚いた芽依子が飛び起きる。
同時に、背中に痛みが走った。
「っっ!…………」
「こらっ、急に起き上がったらあかん」
駆け寄った遥希が、仰け反った体を抱きとめた。
聞き馴染みの関西弁に、シンプルだけど安心する石鹸の香り。
見なくても誰かなんて、一瞬で分かる。
「呼んでも起きひんから、見にきたんやで」
「うそ……ごめん」
「ええよ、いつものことやし。……下で待ってるな」
支えてくれた逞しい腕がほどかれ、少し残念に思ってしまう。
遥希はふわりと笑って、頭に手を優しく置いた。
そのまま、芽依子の髪を少しだけ弄っている。
「な……なに?」
そう言ったのに、目の前の遥希から目を離せないでいる。
黒目の大きな瞳に長い睫、整った鼻筋。
少しだけ短くなった髪は、遥希の精悍さをより際立たせる。
あの頃より、大人の男性の色気を纏っている。
暫く見ていたが、先に視線を外したのは遥希だった。
「支度しぃや。時間なくなるで」
今度こそ、頭を軽く撫でて、立ち上がる。
ドアから出ていく直前に、芽依子に向かって含んだ笑顔を投げる。
「あと、寝顔、ご馳走さん」
一瞬、呆ける芽依子。
じわじわと意味を理解する頃には、ドアは閉まっていた。
「はる兄のバカっ……変態っ!」



