奇跡。

Side:野口 寧々


私、野口 寧々は。


とんでもないものを見てしまった。


ドサッ。


「……っ。」


あいつ が、自殺している。


正確には、自殺して失敗したけど。


叫びそうになるのを両手で必死に抑える。


な、なに……。なんなのよ……。


別に、私のせいじゃない。


あいつ が勝手に自殺しようとしただけで、私が自殺に追い込んだわけじゃない。


それに、山田と原木を同罪だしっ……。


倒れている あいつ 。


起き上がって、パンパンとスカートをはらう。


ちらりと長い前髪から、いつもの死んだ魚のような目ではない、しっかりと焦点の合った目をしていた。


ドキッ。


あいつ ……。


寄生虫のくせにっ……!


「ねぇ、ゴキブリ!」


あーイラつく。


さっさと消えて。


視界に映るだけで、目障り。


さっき動揺したけど、もう余裕。


あいつ が振り返った。


瞳孔が開いている。


内心ほくそ笑む。


「あ、あぁ……。」


もうこの世の終わりだと言わんばかりの真っ青な顔。


そうよ。そう。


寄生虫は、いつまでも怯えてればいいの。


でもね、自殺はしてほしくない。


自殺されたら、私より下にいる者がいなくなっちゃうもの。


だから、こう脅しとく。


「あんた、ほんと病んでんの?そんなイジメられた "だけ" で病むとか。ふっ。頭狂ってんじゃないの?」


バカよね。所詮下等生物のくせに、自殺しようなんていうバカバカしい発想を思いつくから後悔するのよ。


チラリと横目で あいつ を見る。


でも、 あいつ は。


あいつ は、平然としていた。


なんで……?いや、なんでよっ……


いつもみたいに、怖がんなさいよっ……


反応を示しなさいよっ……


あんたのその私たちに対しての態度が気持ちいいから私はっ……、


そんな言葉が、喉の奥までつっかかる。


でも、止まった。


言えなかった。


あいつ の焦点の合った目を見ると。


こっちが狼狽える。


やられっぱなしでムカつく。


私が口を開く前に、 あいつ が口を開いた。


「野口さん。」


「……なに?」


めっっっちゃ動揺した……。


……でも、そっちが格下だって分からせないと。


じゃないと、優位に立っていられない。


認めてもらえない。


だから私は。


見栄を張らないといけない。


「別に。」


ふい、と顔を背けた あいつ 。


イラッとくる。


なによ。自分から呼んどいたくせに。


ふざけないで。無駄な動揺をしたじゃない……。


視界が、どんどん滲んでいく。


あんたまで……、これ以上私の上に立たないで。


追いつかないで。


────追いつかれたら、


私は死ぬ。