奇跡。

Side:原木 美江


夕ご飯を食べ終わって、自分の部屋に行く。


充電器からスマホを外して、パスワードを打ち込む。


まず最初に開くのは。


Simeji。


通知にお隣の𝐋𝐞𝐧から連絡が来てないか確認する。


……あれ?


𝐋𝐞𝐧のアカウントは?


もしかして。


心臓がドキリとなる。


息が荒くなる。


信じたくもない事実。


「消えた……?」


その瞬間、激しい吐き気が私の身体を襲った。


トイレ、トイレ行かなきゃ……!


部屋のドアを乱暴に開け、トイレへと駆け込む。


洗面所で吐き出す。


夕ご飯食べたカップラーメンの具材が出てきた。


汚い。


臭い。


これを見てると、加賀美を思い出すなぁ。


ブスで太ってて。


いつもおどおどしてるガリ勉。


虫唾が走る。


「ちっ。」


今日は最悪の日だな。


部屋に戻ろ。


どうせ𝐋𝐞𝐧が垢消しするはずないんだから。


きっと見間違え。


絶対そう。


今まで何年付き合ってきたと思ってるの。


実際会ったことはないけど、圧倒的な信頼関係を築き上げてきた。


だから、𝐋𝐞𝐧が私を裏切ることは絶対ありえない。


ベットに座って、スマホを確認する。


𝐋𝐞𝐧のアカウントは、


「嘘……。嘘嘘嘘嘘嘘!」


消されていた。


え、なんで?


嘘だよね?ねぇ。嘘でしょ?


ありえない。ありえない、ありえない。


𝐋𝐞𝐧とお隣になってもう3年だよ……?


なんで?なんでよ!


私を信じてくれたんじゃないの?


『世界で一番、愛してる。』


『美江以外考えらんない。』


『嫉妬するから俺のそばから離れないで。』


信じてきた。


その言葉は本当だって。


お互い共依存して、愛し合ってる、信じ合ってるって。


なのに……!


なんで裏切るの?


信じてたんだよ?


私になにか嫌なところがあったら言ってよ!


遠慮せずに言葉に吐き出してよ!


ねぇ。


お願い……。


𝐋𝐞𝐧がいなきゃ……耐えられないよ……。


視界が滲む。


好きって、言ってくれたのに……。


涙が頬をつたる。


ずっとずっと、信じてたのに。


そういえば、小学生の頃も散々私裏切られたな。


思い出した。


『乃音乃音〜!今日一緒に遊ぼ?』


『あ、ごめ〜ん。別の人と遊ぶ約束しちゃった。』


先約は私。


乃音の親友は私。


私がいなきゃ乃音はひとりぼっちになる。


────はずだった。


『そこのタピオカが美味しくてねっ。今度一緒に行かない?』


『いいよ〜。いっつも仲良い私たち三人組で行こ!……美江はいらないよね。』


『うんいらない いらない〜。』


聞こえてたよ。


トイレで話してたこと。


私は個室に居た。


女子ってほんと怖い。


私が知らないところで普通に裏切られてる。


悪口を言われてる。


靴箱にゴミを入れられてる。


仲間外れにされてる。


私はあの時、経験したんだ。


人間って、あんまり信じない方がいいんだと。


でも中学3年生になってる私は。


そんなこと、当然忘れてた。


だからネットに没頭して、相手を簡単に信じて。


バカみたいだな。


自虐する笑みが思わず溢れる。


────でもね。


信じてた。


信じてたよ。


𝐋𝐞𝐧。


お願いだから────。


もう一度私に、チャンスをちょうだい?


生まれ変わらせて。


アカウント、消すから。


私は虚ろな瞳で、アカウント削除ボタンを押した。