好きになった人は、みんなのアイドルで 2

とうとうこの日が来てしまった。
(……真面目な話。別れ話じゃないよね。)

例え別れ話だったとしても、笑顔で悠太郎くんの夢を応援するって決めていた。
トイレで化粧を直して前髪を整える。
(……怖い。)
少し息が浅くなる。

悠太郎くんの姿が見える。
心臓がいつもの倍の速さで脈を打つ。息が苦しい。
「お待たせ」
自分の息切れが異様なことに気付いて嘘をつく。
「ごめん、授業、長引いて……」

「走ってこなくても良かったのに。大丈夫、俺待ってるよ」
「ううん、早く会いたかったの」
……これはほんと。ふたつの意味で。

店に着いて注文を済ませると、
「どうかした?今日、元気無い?」
悠太郎くんに聞かれる。
「ううん、そんなことない。全然元気。」
つい元気なふりをしてしまう。

注文した料理が運ばれてくる。
我慢できなくて、口火を切る。
「……話って、なに?」

ふーっと悠太郎くんが息をつく。
「笑わないで聞いてほしいんだけど、俺、本気でアイドルなりたくて」

「うん」
(……それは知ってる。その先が問題。)

「俺、もっと頑張りたいんだ。デビューしたい」
「チャンスがあったら、いつでも全部掴みに行くつもり」

「だから……」
(……っ!別れてください、って続くんだ)
つい俯いて目を瞑る。

「会えない日とか増えちゃうかもしれないけど、ちょっと練習の日増やしたくて」
「あと、これはもしかしたらずっと先のことかもしれないけど、デビューすることになったら紬ちゃんのことも、苦しめちゃうかもしれなくて」
「それでも今の俺は、紬ちゃんとずっといたくて」
「……こんな俺だけど、いい?好きでいてくれる?」

……別れ話じゃ、なかった。
安心して涙が出る。

「え、ごめん、待って、なんで泣いてるの」
悠太郎くんが慌ててハンカチとティッシュをくれる。

「大好きだよ。ずっとそばにいる。」
気付いたらそう言っていた。

「うん、ありがとう。でもごめん、泣かせる気は無かった」
悠太郎くんがおろおろしているのがおかしい。
こんな姿、見たことない。
少し気が緩むと、また涙が出てくる。
「だって、別れ話だと思ってぇ……」

「なんで、ごめん、え?真面目な話って言ったから?」
「え、どうしようごめん、俺の言い方が悪かった」

「別れてって言われても、笑顔で分かったって言うつもりで、でも、嫌だったから……」
「別れたくなかったから……」
涙が止まらない。言葉も止まらない。

「ごめん、大好きだよ、紬ちゃん。ずっと一緒にいてください」

なにそれ、プロポーズみたいじゃん。
いつかほんとに、ほんとのプロポーズ、してね。
それまでずっと、私はそばにいるから。

そんなこと言えないから、代わりに「うん」って頷いた。