僕の秘密と、彼女の嘘

七瀬がこちらを見た。

驚き。
動揺。
混乱。

いつも、何を考えてるかわからない、いたずらっぽい笑顔しか見てこなかった。
だから、こんなふうに揺れる表情の七瀬を見るのは、初めてだった。

……でも、それはこっちだって同じだ。

だって。

――これ、本当に七瀬?

目の前にいる七瀬は、明らかにいつもと違っていた。

男子用の制服。
いつもと違う髪型。立ち姿。空気。

自由な校風って言ってたし、女子でもスラックス可とか?
……違う。

実は双子の兄がいるとか?
……違う。

わかってる。
……わかってしまった。

目の前にいるのは――
男の姿をした、七瀬本人なのだ。

「えっと……響……」

七瀬は困ったように、でも逃げずに言った。

「さすがに……わかっちゃったよね?」

僕は、何も答えられなかった。
ただ、呆然と見つめることしかできなかった。

「七瀬、先行ってる」

隣にいた男――かき氷男が口を開いた。

「ていうか、今日休むって伝えとく」

「ユズキ……」

「……ちゃんと話した方がいいと思う」

そう言って、ユズキは七瀬の肩をぽんと叩いて歩き出す。

「ユズキ、ありがと! ワタルとハヤトにもごめんって伝えて!」

七瀬が手を振る。
僕は、ユズキが横を通り過ぎても、七瀬から目を離せなかった。

「……七瀬、なの?」

「七瀬だよ」

七瀬は一歩近づき、僕の顔にそっと手を伸ばした。

「ごめんね。ちゃんと説明するから……だから」

やさしい声で。

「泣かないで」

そのとき初めて、自分が泣いていることに気づいた。