満面の笑みで話しかけてきたヤタノが、私の手をひっぱる。けれど、戸惑う。思いっきりコハクをけしかけたあとなのだ。相手も不機嫌そうに__
「ヤタノ、紅茶と茶菓子忘れてるよ」
「おお、うっかりしていた」
___不機嫌そうに?
どうやら不審者兼ヤタノを呼んだ男はティーパーティに乗り気のようだ。人の気持ちはどう足掻いても分からないものだが、それはこの男にも当てはまるらしい。
「さてさて、皆さんが席についたところでお話ししよう。……我が世界の『死神』について」
この男は決め台詞的なものが好きなのだろうか。少しそう思ったが、男の少し、ほんの少し真剣な表情をみて至って真面目なことを知る。
この台詞の少ない情報からなるべく情報を取ろうと思考する。死神。死を司る神、くらいのイメージしかない。もちろんそれは空想上のものなので、作品によって設定や意味が変わってくる。が、その過程で共通点が「死を司る」であるため、ロクなものではないのだろう。
「改めて、僕は神。全知全能を司る、始まりの、そしてこの世界では唯一の神だよ」
「………にしては、弱い」
「あぁ、それは『死神』関係ないんだ。ただ神が人間に手を出すと、少し大事になる。ロクな抵抗もなかっただろう?」
お菓子をパクパクと口の中に入れたヤタノが捕捉する。それに神は頷くと、皮肉げに笑う。
「もう数千年も前になるかな。ちょっと厄介な契約なんだ。……詳しく話してもいいけど、とりあえずそこはいい。問題は、僕がこの世界の『唯一の』神というところなんだよ」
「……つまり、自分だけが神であって欲しいから、死神を倒してほしい?」
「違う。……まぁ、死神を倒してほしいのはそうなんだけど」
神は目の前の菓子…マカロンを手にして、行儀悪く肘をつき示すようにふる。
「『死神』は人造の神様で、自然発生する本来のものとは違うんだ。……そう何度も作れるものではないから、そこまで重要でもないと思ったんだよ。倒せなくても僕の世界では人身御供の封印も採用されているし。で、ほっといたらちょっと問題が起きちゃって」
それはそうだと思う。今のところ神の定義が曖昧で分からないが、封印があるならばさっさと封印するだろうというのは同感だ。けど、
「………自分で封印しようとは思わなかった…?」
神であるならばそれはきっと容易なのだろう。そうでなくても、ヤタノがいる。なぜ今その死神を倒せていないのかが分からない。
「………結論を言うとできない。私はこいつの世界に顕現することができないからな。あくまで役割の補助をするのみ。私はただの死人でありこいつの眷属ではないので、行動範囲はこの場所だけなんだ。よって、死神を倒す手伝いすらもできるか分からない」
神も頷くと口を開く。
「僕は顕現できないわけではないけど、そもそも『契約』で人には手を出せないんだよ」
「………?死神は『神』では」
「うん。けど、その存在は『元人間』で、根本から違うんだ。いくら神であると言っても、世界は人間と判別する。だから無理」
ためらいなく神は首を振る。
神としてのプライド云々を入れられるよりは好感が持てるが、役に立たない。
「そこで君だ」
私の方を神はみると、指で……いやマカロンで指す。
「君には僕の眷属になってもらう。で、ぱぱっと死神を倒してきて」
「………ぱぱっと……」
要は神様達は無理だから、私に死神の処理を頼む…ってことだろうか。
………なぜ?
まぁ思考した方が負けだともう知っている。
「戦闘能力は申し分ない。あとは転送にあたって多少見た目を変えさせてもらうけど……それでリクエストないかなって思って」
「……好きな容姿に変えられるってこと?」
合点がいった。けれどそれが重要とも思えない。そのままの容姿ではだめなのだろうか。……いや、「死神」にある程度近づくためには必要だ。
「……ほどほどレベルで」
「オッケー。わかった。どの程度が程々かはわからないけど」
「…………なぁ、いいか」
そのまま服について話しはじめたが、ヤタノはそれを遮った。無論、神も止める気はないようで、「どうしたの?」と先を促す。
「正直、あの世界は変だ。人間関係も価値観も環境も、どこかおかしい。そんな中で『おかしい』という存在が、どの程度おかしいのかがわからない。……たとえば、世界や神を騙して、蘇生術や禁術に手を出しているかもしれない。もうすでに狂って壊れてしまっていて、世界はそれをすでに排除しようとしていて半壊…なんてこともあり得るのでは__」
「悲観はやめなよ」
要は反対しているのだろうか。元々そのつもりで鳥居をこえたので、そこはあまり心配していなかった。それより他人に心配されるとは、そこまで頼りなさそうなのだろうか。
いつの間にか食べられていたらしく、マカロンを新たに取ってなんてこともないように神はいう。
「その通りかもしれない。『死神』も『世界』もまだわからないからね。けど考えてみて。死神は死ねない。死ねない人は、”死ねないから”心を病む。神のような精神を持つでもなく不老不死になるんだから当然だよね」
だから、そこに死ぬ手段を用意する。神は変わって、ひどく愉快そうに口を歪ませた。
「相手は抵抗するどころか、乞い願うだろう。どうか自分を終わらせてくれ__そんな人をスパッと殺すだけ。そのあとは別に好きなように生きるなり死ぬなりすればいい。その世界で君は”幸せ”になれるよ。これでハッピーエンドってわけ」
「___は」
なぜ願いを知っている。そう思った。けれど当然かとすぐ理解する。相手は人ならざるものなのだ。知っていても別におかしくはない。ならば考えるべきはそこじゃない。
「しかし__」
「ヤタノ」
ヤタノが何かを言いかけるのを気に止める暇もなく、思考が回る。
自分が世界に来た理由はなんだ?__自分を嫌悪する人間から逃げるためだ。そこに幸せは求めていない。どうせ中にいるのは自分と同じか、それ以上の化け物で。だからどうせ通過点だと……
「…………しあわせ」
「うん」
呟きに、他でもない「神」が頷いた。
「……………なれる…?」
「うん」
「___根拠のない同意をするな!!!」
ガタンとテーブルが揺れる。ヤタノが憤怒の形相でそこに立っていた。蹴り飛ばしたのだろうか。椅子が後ろで背もたれを地につけながら、虚しく転がっていた。
「なぜ断言した!!?それを示す根拠はない。騙されるな__」
「えー」
その伸ばし棒のついた一文字は、恐ろしく平坦で、まだみぬ新しい、でも興味もないものに向けるだろうというようなものだった。
「死神は倒してもらわないと、困るよね」
「でも__」
「だから、よろしくね。イナリ」
神は私に向かって笑いかける。拒否を許さない、ではない。拒否という選択を否定し尽くすような狂気だった。
「__僕も自分が変な自覚はあるよ。何せこんな世界を作るくらいだからね」
でも、と神は笑った__いや、嗤った。
「どうしようもなくみんな、__『かわいそう』に感じるんだよね」
意味がわからなかった。でもわかったら多分それは人間ではなくなってると思った。だからわかりたくもなかった。
「だから僕は救うんだよ。戦場を用意して、陰謀を用意して、__まぁ死神は想定外だったけど、”悪くない”」
「…………何を言って__」
「そこへ『絶望した少女』なんてありふれたもの、入ってこないでほしいよね。だから最初は殺した。当たり前。けど驚いたよ。合理性も何もかも無視して生を掴み取ろうとする意思があったなんて。あはは、気持ち悪ー」
気持ち悪い。それを承知でもがいたけれど、
………お前は、冷水に浸って息ができずに死んだことあるの?
「だから君も救われる。だって完璧でしょ?絶望した少女なんてくだらない設定より、死神を殺し返す少女の方が百倍、いや千倍は面白い!!」
何がおかしいのかケラケラと楽しそうに彼は笑う。もう目の前の人物がなんなのかよくわからなかった。ただ、寒気がした。
「ああー見たいなぁ、殺されたときの死神の顔。笑うかな、泣くかな、抵抗するかも…」
「もう黙れ……」
呆然と、ヤタノはつぶやいた。ただ立って神を見ている姿は、どうしようもなく弱々しい。
「イナリ、これからお前を転送する…」
「あ、もう一ついい?」
「今度は何だ!?」
空気を読んでか読まずか、神は言った。
「早く殺してね。決心がブレると君は不幸になるよ」
それが、神との会話の終わりだった。
底が抜けた。真っ暗なブラックホールという表現が似合うであろう形相だった。私だけそこに落ちて行く。視界が黒で塗りつぶされた。いずれ視界も無くなった。クルクルと雑に回された感じがした。ベタベタと何かをつけられた。多分それが話していた容姿に関するものなのだ*ろう。*更ながら*心**な***……
…………
「ヤタノ、紅茶と茶菓子忘れてるよ」
「おお、うっかりしていた」
___不機嫌そうに?
どうやら不審者兼ヤタノを呼んだ男はティーパーティに乗り気のようだ。人の気持ちはどう足掻いても分からないものだが、それはこの男にも当てはまるらしい。
「さてさて、皆さんが席についたところでお話ししよう。……我が世界の『死神』について」
この男は決め台詞的なものが好きなのだろうか。少しそう思ったが、男の少し、ほんの少し真剣な表情をみて至って真面目なことを知る。
この台詞の少ない情報からなるべく情報を取ろうと思考する。死神。死を司る神、くらいのイメージしかない。もちろんそれは空想上のものなので、作品によって設定や意味が変わってくる。が、その過程で共通点が「死を司る」であるため、ロクなものではないのだろう。
「改めて、僕は神。全知全能を司る、始まりの、そしてこの世界では唯一の神だよ」
「………にしては、弱い」
「あぁ、それは『死神』関係ないんだ。ただ神が人間に手を出すと、少し大事になる。ロクな抵抗もなかっただろう?」
お菓子をパクパクと口の中に入れたヤタノが捕捉する。それに神は頷くと、皮肉げに笑う。
「もう数千年も前になるかな。ちょっと厄介な契約なんだ。……詳しく話してもいいけど、とりあえずそこはいい。問題は、僕がこの世界の『唯一の』神というところなんだよ」
「……つまり、自分だけが神であって欲しいから、死神を倒してほしい?」
「違う。……まぁ、死神を倒してほしいのはそうなんだけど」
神は目の前の菓子…マカロンを手にして、行儀悪く肘をつき示すようにふる。
「『死神』は人造の神様で、自然発生する本来のものとは違うんだ。……そう何度も作れるものではないから、そこまで重要でもないと思ったんだよ。倒せなくても僕の世界では人身御供の封印も採用されているし。で、ほっといたらちょっと問題が起きちゃって」
それはそうだと思う。今のところ神の定義が曖昧で分からないが、封印があるならばさっさと封印するだろうというのは同感だ。けど、
「………自分で封印しようとは思わなかった…?」
神であるならばそれはきっと容易なのだろう。そうでなくても、ヤタノがいる。なぜ今その死神を倒せていないのかが分からない。
「………結論を言うとできない。私はこいつの世界に顕現することができないからな。あくまで役割の補助をするのみ。私はただの死人でありこいつの眷属ではないので、行動範囲はこの場所だけなんだ。よって、死神を倒す手伝いすらもできるか分からない」
神も頷くと口を開く。
「僕は顕現できないわけではないけど、そもそも『契約』で人には手を出せないんだよ」
「………?死神は『神』では」
「うん。けど、その存在は『元人間』で、根本から違うんだ。いくら神であると言っても、世界は人間と判別する。だから無理」
ためらいなく神は首を振る。
神としてのプライド云々を入れられるよりは好感が持てるが、役に立たない。
「そこで君だ」
私の方を神はみると、指で……いやマカロンで指す。
「君には僕の眷属になってもらう。で、ぱぱっと死神を倒してきて」
「………ぱぱっと……」
要は神様達は無理だから、私に死神の処理を頼む…ってことだろうか。
………なぜ?
まぁ思考した方が負けだともう知っている。
「戦闘能力は申し分ない。あとは転送にあたって多少見た目を変えさせてもらうけど……それでリクエストないかなって思って」
「……好きな容姿に変えられるってこと?」
合点がいった。けれどそれが重要とも思えない。そのままの容姿ではだめなのだろうか。……いや、「死神」にある程度近づくためには必要だ。
「……ほどほどレベルで」
「オッケー。わかった。どの程度が程々かはわからないけど」
「…………なぁ、いいか」
そのまま服について話しはじめたが、ヤタノはそれを遮った。無論、神も止める気はないようで、「どうしたの?」と先を促す。
「正直、あの世界は変だ。人間関係も価値観も環境も、どこかおかしい。そんな中で『おかしい』という存在が、どの程度おかしいのかがわからない。……たとえば、世界や神を騙して、蘇生術や禁術に手を出しているかもしれない。もうすでに狂って壊れてしまっていて、世界はそれをすでに排除しようとしていて半壊…なんてこともあり得るのでは__」
「悲観はやめなよ」
要は反対しているのだろうか。元々そのつもりで鳥居をこえたので、そこはあまり心配していなかった。それより他人に心配されるとは、そこまで頼りなさそうなのだろうか。
いつの間にか食べられていたらしく、マカロンを新たに取ってなんてこともないように神はいう。
「その通りかもしれない。『死神』も『世界』もまだわからないからね。けど考えてみて。死神は死ねない。死ねない人は、”死ねないから”心を病む。神のような精神を持つでもなく不老不死になるんだから当然だよね」
だから、そこに死ぬ手段を用意する。神は変わって、ひどく愉快そうに口を歪ませた。
「相手は抵抗するどころか、乞い願うだろう。どうか自分を終わらせてくれ__そんな人をスパッと殺すだけ。そのあとは別に好きなように生きるなり死ぬなりすればいい。その世界で君は”幸せ”になれるよ。これでハッピーエンドってわけ」
「___は」
なぜ願いを知っている。そう思った。けれど当然かとすぐ理解する。相手は人ならざるものなのだ。知っていても別におかしくはない。ならば考えるべきはそこじゃない。
「しかし__」
「ヤタノ」
ヤタノが何かを言いかけるのを気に止める暇もなく、思考が回る。
自分が世界に来た理由はなんだ?__自分を嫌悪する人間から逃げるためだ。そこに幸せは求めていない。どうせ中にいるのは自分と同じか、それ以上の化け物で。だからどうせ通過点だと……
「…………しあわせ」
「うん」
呟きに、他でもない「神」が頷いた。
「……………なれる…?」
「うん」
「___根拠のない同意をするな!!!」
ガタンとテーブルが揺れる。ヤタノが憤怒の形相でそこに立っていた。蹴り飛ばしたのだろうか。椅子が後ろで背もたれを地につけながら、虚しく転がっていた。
「なぜ断言した!!?それを示す根拠はない。騙されるな__」
「えー」
その伸ばし棒のついた一文字は、恐ろしく平坦で、まだみぬ新しい、でも興味もないものに向けるだろうというようなものだった。
「死神は倒してもらわないと、困るよね」
「でも__」
「だから、よろしくね。イナリ」
神は私に向かって笑いかける。拒否を許さない、ではない。拒否という選択を否定し尽くすような狂気だった。
「__僕も自分が変な自覚はあるよ。何せこんな世界を作るくらいだからね」
でも、と神は笑った__いや、嗤った。
「どうしようもなくみんな、__『かわいそう』に感じるんだよね」
意味がわからなかった。でもわかったら多分それは人間ではなくなってると思った。だからわかりたくもなかった。
「だから僕は救うんだよ。戦場を用意して、陰謀を用意して、__まぁ死神は想定外だったけど、”悪くない”」
「…………何を言って__」
「そこへ『絶望した少女』なんてありふれたもの、入ってこないでほしいよね。だから最初は殺した。当たり前。けど驚いたよ。合理性も何もかも無視して生を掴み取ろうとする意思があったなんて。あはは、気持ち悪ー」
気持ち悪い。それを承知でもがいたけれど、
………お前は、冷水に浸って息ができずに死んだことあるの?
「だから君も救われる。だって完璧でしょ?絶望した少女なんてくだらない設定より、死神を殺し返す少女の方が百倍、いや千倍は面白い!!」
何がおかしいのかケラケラと楽しそうに彼は笑う。もう目の前の人物がなんなのかよくわからなかった。ただ、寒気がした。
「ああー見たいなぁ、殺されたときの死神の顔。笑うかな、泣くかな、抵抗するかも…」
「もう黙れ……」
呆然と、ヤタノはつぶやいた。ただ立って神を見ている姿は、どうしようもなく弱々しい。
「イナリ、これからお前を転送する…」
「あ、もう一ついい?」
「今度は何だ!?」
空気を読んでか読まずか、神は言った。
「早く殺してね。決心がブレると君は不幸になるよ」
それが、神との会話の終わりだった。
底が抜けた。真っ暗なブラックホールという表現が似合うであろう形相だった。私だけそこに落ちて行く。視界が黒で塗りつぶされた。いずれ視界も無くなった。クルクルと雑に回された感じがした。ベタベタと何かをつけられた。多分それが話していた容姿に関するものなのだ*ろう。*更ながら*心**な***……
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